By. Mick Sawaguchi
日時:2007年1月21日
場所:WOWOW放送センター
講師:中村寛(WOWOW)
テーマ:WOWOWのサラウンド制作
沢口:今回は、辰巳にありますWOWOW放送センター内に2006年完成したサラウンド対応ポストプロダクションスタジオにてWOWOWの様々なサラウンド番組のデモと解説をお願いしました。WOWOW制作のサラウンドは、従来のジャンルとは異なった演劇やパフォーマンスそして紀行番組のサラウンドなど大変独自色を打ち出しているのが特徴かと思います。デモと解説は中村寛さんにお願いしました。
中村:WOWOWの中村です。当社はことしで開局16年目となり衛星放送の先駆者としてアナログ、デジタルでの有料放送を行ってきました。オリジナル制作でサラウンド番組を制作しようということで3年ほど前、既存機材を仮設してスタートしましたが、2006年6月に念願の専用ポストプロダクションスタジオとしてここが完成しました。
現在の使用状況は、トラックダウンとポストプロダクションMIXが50:50の割合です。2006年12月は、自社制作が多かったこともあり70%がサラウンドで制作しています。音楽のトラックダウンでは、専用スタジオということもあり一日3曲ペースでMIXを行っています。またスペシャル枠での舞台や演劇などは2-3時間と長いこともありますが、実質一月程かけてじっくり制作できるのが、自社スタジオの強みではないかと思います。他社さんのようにレギュラー枠が多くありませんので!
この場所は、当初衛星ラジオのセントギガの制作スタジオやCSでの番組配信マスターなどでつかってきたスペースを有効活用して更新したものです。最初にここの設備面の説明をします。
コンソールはSSL C-300 モニタースピーカはGENELEC8050 LFEは、同じGENELEC 70702台。DAWはプロツールズがMIX用とプリプロダクション用の2式です。
C-300を導入した理由は、特にステレオへのダウンMIXやLFEのフィルター機能等放送でのサラウンドMIXという用途に対して大変機能的に設計されているからです。
映像モニターは、画質よりも映像の遅延の少ない機種という点でシャープの液晶タイプとしました。それでも約1.5Fの遅延がありますので、最終MIXでの映像とのリップシンク確認用にモニター出力には50msecのディレイをいれてあります。サラウンドモニター半径は2mと大変狭いのですが、最適リスニングポジションは、MIX席と後方のディレクター席の2点で最適化し、おのおの切り替えできるようになっています。このことで最終確認の場合にはディレクターも十分なサラウンドバランス環境でチェックできます。
また家庭でのサラウンド再生バランスチェック用として小型のBOSEホームシアタークラスのスピーカも併設しています。DAWのプロツールズは48CHモデルがMIX用、16CHモデルが事前仕込み用のPRE-MIXとして隣接したブースに設置しています。スタジオ内装はソナにお願いしました。
基本方針は、既存躯体を大幅に改修することなく音響改善を行いたいということで、ごらんのように天井に拡散、吸音パネル設置、モニタースピーカ周りは専用の吸音パネル付属のモニター台としました。ここまでで設備面に関する質問があればどうぞ。
Q-01:床はどう処理したのですか?
A:床は、既存のフリーアクセス構造のままです。当初不要共振や遮音問題などを懸念し実際の音だしをしてチェックしましたが、モニターレベルは、通常78dBと大きくないので音響面で問題となることはありませんでしたので、そのままにしています。
Q-02:コンソールでのメータリングはどうやっているのですか?
A:コンソール内臓のVUメータおよびステレオスコープでサラウンドのダウンMIX音声をモニターし、外部DK-オーディオでサラウンドピークメータと位相管理をしています。他では、サラウンド出力にも単独VUメータでレベル管理している例もありますが、ここではピークメータのみのチェックとしています。
Q-03:完成マスターの放送形式は?
A:現在ではD-5 8CH VCRやHD-CAM SR 12CHなど一体型の記録ができる機材がありますが、当社の開局当時はD-5 4CH対応しかありませんでしたので現在も映像と別にサラウンド音声はDA-98 8CHをタイムコード同期で再生しています。ヘッドのメンテは1000時間以内でメンテしています。
Q-04:スピーカで他の機種はどんなモデルを検討しましたか?
A:ダイナオーディオやフォスター、それに同じGENELECでもモデルの異なる機種などを検討しました。
Q-05:LFEを2台とした理由は?
A:LFE一台ですと、どうしても定位感が感じられるのとソナからの推奨があったからです。LとRのスピーカ配置に近い場所で低域が一体化できかつ部屋のモードの影響を受けにくいという点で、決して安くはないLFEですが2台化しました。
それでは、残りの時間でWOWOWの特徴であるユニークなサラウンド番組を聞いて頂きます。
デモー01 NODA MAP オイル 2003-07-21放送
これは当社にとって初めてのサラウンド制作で私にとっても思い出深い番組です。2003年渋谷のシアター コクーンで収録です。この当時はまだこのような設備も機材もありませんでしたので、現場にはDA-98を2台同期させて収録しました。マイキング図を参照下さい。
台詞は、フットマイク5本上手台詞1本オーディエンス用はフロントから2ペアと客席後方で1ペアです。これに音響素材がPAから分岐できています。この時は仮設サラウンドMIX でテープベースでの整音でしたので大変苦労した思い出がありますが、キメの細かさなど現在のDAWベースになってからのデモと比較して頂ければと思います。
デモー02BEGIN デビュー15周年 大阪記念公園LIVE 2005-05-07放送
これは2006年3月21日大阪万博記念公園でのLIVEですが、ステージも素通しといった作りなので大変ドライなサラウンド空間となっているのが特徴です。また彼らは観客のみなさんとじっくり会話しながら進行するので音楽以外のそうした話のやりとりもSE扱いでなくしっかりきかせるためピックアップマイクを配置しました。この時はDA-98を4台の同期で収録しています。マイキングを参照ください。理屈からいえばおかしいかもしれませんがフロントサイドとリアマイクをMIXのときにサラウンドへ振っていますが、これは様々なポイントにたてたマイクからの音をきいて最も収まりのいい定位とした結果です。
デモー3 地球ゴージャス「Humanity the Musical-モモタロウと愉快な仲間たち」2006-09-08放送
収録は新宿コマ劇場で収容人員はシアターコクーンより大きく2000人ありますので先ほどの空間とは異なった響きも感じていただけるのではないでしょうか。この制作からこのスタジオが使用できるようになりました。収録はDA-98同期収録からDAWプロツールズになりました。出演者のひとりひとりにWL-マイクが仕込んでありますのでその数だけで計22チャンネルとなります。それに音楽 SE フットマイク 4本 そしてオーディエンス用はフロントの上下と客席からで6本です。収録後この22チャンネルの仕込みマイクをPRE-MIX して台詞トラックを作らなければならないと思っていましたが、音響担当のミキサーの方はツアー専属で馴れているので台詞を切り替えてまとめたトラックももらっていましたので90%以上はこれをそのままセンター定位として使うことができました。それ以外で何カ所か定位や動きをつける場面がありましたのでその部分だけ単独チャンネルから使用するだけですみました。
デモー05 特集レールウエーストーリー「中国悠久のシルクロード大紀行」2006-10-28-11-25
汽車をテーマにした紀行番組レールウエーストーリはWOWOWの当初から続いている海外ロケ長寿番組です。2005年からサラウンドでの収録を行う特集が出来るようになり、2005年ベトナム2006年に中国の鉄道を収録しました。これは天山南路・北路でそれぞれ50分を2回、計4回シリーズで制作しています。2006年9月にロケを行いましたが、当時日中関係が思わしくなかったこともあり通常のロケクルー全員の入国が許可されず、日本からは2名のみということになりました。さてどうするか?サラウンド制作なのでミキサーは是非と提案し日本からはミキサーとディレクターそれ以外は中国スタッフという混成で制作しました。しかし、カメラマンは共同制作もたくさん経験しておりかつ、F-900という我々でも持っていない高価なハイビジョンカメラを所有しているなど、良い経験ができたロケでした。録音はレコーダがFOSTEX PD-6にSANKENのWMS-5とCUW-180によるW-A/Bの2タイプを状況によって使い分けしています。収録後の映像編集ワークを見ながらディレクターとミキサーと音響効果担当の3者で音楽のみ・SEのみ・音楽とSEの組み合わせの3つをどのシーンでどうするか打ち合わせを行ったうえで必要なロケ素材をPRE-MIXしていますのでポストプロダクションは大変スムースでした。寺子屋で東京TVセンターの高木さんも話していましたが、ロケ現場でいかに使える音をとってくるかの経験が最終的な完成度を左右すると実感した番組でした。固定ファンの多い番組なので今後もこのシリーズは、映像はハイビジョンで音声は、サラウンドを目玉にWOWOWの売りにしていきたいと考えています。
デモー06 ブラスト2-MIX JAPANツアー2006 2007-01-06放送
これはどういったジャンルと一言でいえない範疇にはいるLIVEパフォーマンスで出演者全員が音楽を演奏しかつダンスパフォーマンスを行うというユニークな舞台です。2006年8月東京フォーラムで収録。全員楽器を演奏するのでWL仕込みマイクで32チャンネル、シンセ楽器やパーカッションのLINE出力 SEそれにオーディエンスマイクが8チャンネルの計64トラックの収録となりました。ポストプロダクションの前にこれら32チャンネルの仕込みマイクを整理するためPRE-MIXしています。
この後WOWOWの送出設備を見学しました。舞台や演劇、鉄道紀行など他局がやらないユニークなジャンルを積極的に開拓してWOWOWのカラーに仕上げてきた講師の中村さんの意欲とエネルギーを感じる持ち出し寺子屋でした。中村さんありがとうございました。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
January 21, 2007
January 10, 2007
Let's Surround No.6 フィールドサラウンド制作の実際
By Mick Sawaguchi 沢口真生
第32回サラウンド塾 カムチャッカ世界自然遺産 サラウンドロケ 高木創
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」目次
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
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サラウンドめぐり 三村将之(読売テレビ)
"そこで2006年3月に「関西サラウンド勉強会」を立ち上げました。各局・プロダクションの音声担当者がメーリングリストで番組の告知をしたり、年数回の「勉強会」を開くのです。"「放送技術」より
「サラウンドめぐり」 サラウンド開拓者の熱いメッセージ Index
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