By. Mick Sawaguchi
日時:2006年6月25日
場所:三鷹 沢口スタジオ 講師:西田俊和(NHK)
テーマ:オーディオドラマのサラウンド制作
沢口:今月の寺子屋は、オーディオ ドラマのサラウンド制作についてです。講師は、1980年後半からオーディオドラマ一筋にミキサーとして活躍しているNHKの西田さんです。ではよろしく。
西田:今日はオーディオドラマのサラウンドとしては最新作になります4月17日FM放送「査察機長」をきいてもらいながらこれまでの取り組みやどのようなサラウンドデザインがあるのかなどをデモと解説で進めたいとおもいます。
オーディオ ドラマでのサラウンド制作の歴史
1987年 シュナの旅 DOLBYマトリックス
でスタートしその後 年2−3本をサラウンドで制作してきました。
1998年に「夢の棺」で初3−2サラウンド制作となり
2001年にLFEを加えた5.1CHが「アルケミスト」で制作
2004年からは「乳房」でDOLBYPL-2による放送波での5CHオンエアが実現してきました。
オーディオドラマの制作フロー
オーディオ ドラマの制作フローは以下のような流れで行われています。
1 制作うち合わせ
2 台詞録音
3 効果音録音
4 音楽録音
5 Pre-Mix
6 Final Mix
Final Mix されたマスターは現在5.1CHでHDに保存し、一方放送用にそれをエンコードしてDolby PL-2の2CHエンコードマスターが制作されます。 Final Mix 時はデコードした音もモニターしながらミキシングを行っています。
では、50分の「査察機長」をお聞き下さい。NHK FMでは毎週土曜日の22:00−22:50に FMシアターという枠で様々なオーディオ ドラマを放送していますのでこの機会に是非じっくりとお聞き頂きたいとおもいます。
デモ
査察機長のデザインコンセプト
この作品では狭い圧迫感をサラウンドで表現することに挑戦しました。ドラマの進行がコックピットという狭い空間の中で進められますのでこれをどう表現するかが今回の私のテーマです。基本的な空間配置は以下のようなデザインを基本とし、これとコントラストをつけるため広がりのある空間として空港ロビーや夢のシーンを対比させています。
台詞収録マイキングはM/S両指向としSマイク成分を分岐してセンターにもっていくことで3CHの壁のような台詞定位としました。
これとは別にモノローグはモノローグ専用のマイクでハードセンターへ定位させています。コックピットの中が実際どんな音がしているのか体験したことがありませんでしたので各種ビデオやDVD資料などで雰囲気をあらかじめつかんでおくことにしました。
音楽録音は、毎回苦労の連続ですが、今回はサラウンド メインマイクアレーを置かないで楽器別スポットマイクとパーカッションパートにサラウンドマイク、そしてティンパニーにYAMAHA SUB-KICKマイクを付加してこれをLFEに送っています。
ディスクリート5.1CHサラウンドとDolby PL-2の聞き比べ
ここで実際の5.1CHマスターとPL-2にエンコードした2CHそしてデコードした5CHを同じMIXで聞いてください。
私の経験では、ほぼ意図した音場が再現できていると思います。定位に関してはPL-2特有の定位コントロール回路が入っていますので微妙な定位やゆっくりしたパンニングは苦手です。
それでは、これ以外の最近作からいくつかクリップを用意してきましたのでお聞き下さい。
デモ 2005年11月3日に2時間の特集として放送した「古事記」
原作市川森一 音楽小六礼次郎さんです。デザインコンセプトはSF映画のような音場です。
次は2005年8月14日の終戦記念として放送された「見よ蒼い空に白い雲」から
これは実在の沖縄戦体験者の手記をドラマ化したものでデザインコンセプトは戦争の恐怖です。音楽は西村朗さんですがオンドマルトノや様々なPER を使用しました。
次は、FMで毎日15分の枠で放送している青春アドベンチャーの中から「ミヨリの森」をおききください。
これは連続10回シリーズで2004年11月15日ム12月26日で放送されました。50分のドラマほど制作スケジュールがとれませんのでサラウンドパートは予め2CHエンコード処理を行いFinal Mix 時には、デコードしたモニターを聴きながら制作しています。このメリットは通常のステレオ機材を活用でき効率的に制作出来るという点です。
効果音FOLEY録音の楽しみ
私は、オーディオ ドラマの楽しみのひとつにFOLEYや効果音つくりをあげたいと思います。これはまさにアイディア勝負の部分でもありディレクター 音響デザイン ミキサー3者がスタジオで色々なアイディアを出し合いながら作っていく作業です。
一例に今ポリ袋を持ってきていますが、これを素材に井戸の中に落ちたポチャンという水音がサラウンドに広がっていく効果音をつくりました。効果音作りは担当者の個性がもっとも良くでる部分として私も色々なアイディアをいつも考えています。
沢口:西田さんありがとうございました。感想や質問があればどうぞ。
Q-01 長時間音だけのドラマを聴いたのは初めてのことでしたが、いつもはながらで聴いている音楽DJ番組とちがってじっくり聴き応えがあるということがわかりました。放送にもすばらしいメディアがあったのだと感激しました。
Q-02私もオーディオ ドラマをサラウンドで聴いたのは初めてです。映画と違って客観的に眺めるというのではなく、私自身もこの世界に一緒に入り込んで体験しているという気持ちがしました。それだけパーソナルな世界だなあという感想です。
Q-3 コックピットの機内音などはサラウンド録音したのですか?ステレオ素材からどういった方法でサラウンドにするのでしょうか?
A 機内音などアンビエンスはステレオ素材しかありませんので、それらを各種組み合わせてサラウンドにしています。例えば同じような素材をフロントとリアに配置し、機器類やアラーム音などをスポット的に散らして配置するといった組み合わせで作っていきます。
Q-4 いわゆるドラマ音楽は通常の音楽にくらべ台詞や効果音とぶつからないようにしなければならない分バランスが難しいと思いますが、今回はどうして録音していますか?
A その通りで、台詞や効果音とぶつかっては意味がありません。そのため音色としてはマイクの距離で調整するのとメインの台詞や効果音が定位している部分をよけるといった定位の2通りでバランスを考えます。
Q-5コックピットとその後ろにある仮眠室のアンビエンスは大変静かでしたが、実際は隣なのでもっとうるさいのでは?
A 実際の状況からいえばその通りです。しかしこのドラマのストーリー展開を考えると仮眠室というのは回想や夢といった別世界へいく糸口という役割をしておりその意味で通常のコックピットとは対比を付ける意味であえて静かな真空状態にしています。ドキュメンタリーであれば指摘のような音場にしていたでしょう。
Q-6 PL-2で定位をコントロールする場合の注意点は?
A マトリックス方式のエンコーダ・デコーダでは宿命的にこの問題が生じます。そこがディスクリートのサラウンドとは異なる点です。ひとつは必ずエンコード・デコードでモニターしながらMIXをするということ。そして音源の定位はあまり中間的な定位にしないで明確にFL/C/FRといった定位にすることで動きがふらつくことを回避します。また音源のパンニングがある場合は、ゆっくり動かさずに早めにうごかして定位のふらつきを予防するなどが注意点です。
Q-7 各シーンごとにサラウンドの音作りをする場合の基本はスタッフ間でどうしているのですか?
A うち合わせの段階で絵コンテを描いておきこれによって基本がスタッフ間で統一されますのであとはそれをより練り上げていくことで全体のデザインがぶれないようにしています。
西田:NHKの放送は1925年にラジオから出発し今年で81年の歴史となりました。その間モノーラルからステレオそしてサラウンドと立体音響への歴史と挑戦の歩みだったとも言えます。私たちはそうした先輩たちの表現方法を振り返りながら今後のあらたな表現を模索していく必要を感じています。デジタルラジオが実現すれば本来のディスクリートサラウンドで作品がまたお聴かせできると思います。
今日は若い方々も多かったので映像だけでなくこうしたオーディオ ドラマのもつ魅力についても再発見し、機会があれば仕事にもしてほしいと思います。
*今回は ドイツ バイエルン放送協会からサラウンドの勉強にNHK深田さんのところへ一月来ているウルリケさんや芸大でサウンドデザインを受講している若手も交えて世代を越えての楽しいAFTER-5も行われました。(了)
「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
June 25, 2006
June 10, 2006
第6回サラウンドへの道 サラウンド音場へのきっかけー不満は新たな起爆剤だ! Road to Surround Mick 35 years experience part-06 2007-01
By Mick Sawaguchi 沢口真生
"こうしたツールは、広がり感やパンニング処理で耳の横方向までは拡大出来ました。しかし360度のパノラマ音場を実現したいと思ったときには、何かもうひと味違う手法はないのかなあと考えるようになったわけです。" 「放送技術」より
「サラウンドへの道」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
"こうしたツールは、広がり感やパンニング処理で耳の横方向までは拡大出来ました。しかし360度のパノラマ音場を実現したいと思ったときには、何かもうひと味違う手法はないのかなあと考えるようになったわけです。" 「放送技術」より
「サラウンドへの道」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
June 4, 2006
第2回 中国サラウンドセミナー済南市 レポート
By Mick Sawaguchi 沢口真生
第2回中国サラウンドセミナーin 済南 山東TV レポート
Mick Sawaguchi・Akira Fukadaに2004年に中国の南に位置する広州で第1回目のサラウンドセミナーが開催されました。その時コーディネーションを担当しているEliten Chang氏から、「また2年後にどこかでやる予定なので、その時また参加してくれ」と言われていましたが、2年後の2006年4月22〜3日の2日間、山東省山東TV局で開催するので参加しないかと要請がきました。今回は、音楽サラウンド制作の基礎とスポーツの生放送サラウンド制作を講師側から講演し、参加者からはそれぞれの最新サラウンド作品を持ち寄ってデモと解説、ならびにお互いにディスカッションするという内容です。
私は、現在日本の各放送局がデジタル放送で制作しているスポーツサラウンドの紹介を担当し、音楽制作については、ベテラン深田晃さんに依頼して出かけることにしました。第2回目となった中国のサラウンド制作者の熱い情熱と取り組みについて報告します。寺子屋のメンバーのみなさんにもいい刺激があるのではないかと思います。
1 山東省済南市の山東TV放送
山東省は、黄河が黄海、渤海へと流れ込む入り江に位置した人口9000万の省です。ここは中国でも歴史の長い地域であり、儒教の発祥孔子の生まれ育った町、曲阜孔子廟は世界自然遺産に指定され、毎日多くの訪問者でにぎわっており、中国5山の一つである泰西山を頂いています。
山東省の省都済南市にある山東TV局は、1960年に開局現在で45年の歴があります。2004年の秋に新しくTVスタジオを建設し、その設備を映像はハイビジョンに音声は、サラウンド対応の設備とした最新のスタジオです。放送局長のHANN氏は、我々のセミナー歓迎セレモニーの中で「我々は中国全土にある中央TV局のなかでも現状に甘んじることなく、お互いが競争することでトップクラスの人材を育てていく方針でこのスタジオを建設した」と彼の経営方針を説明してくれました。彼の前身の局長は「何事も現状維持主義」だったそうですが、彼が局長となってからは、局内にいい意味の緊張感と向上心が芽生えたと音声部長のMr.YU が我々に話してくれました。ここがいままでのCP中心主義と異なってきた大きな原動力だと思います。
音声コントロールルームはユーフォニックスS-5をメインにDynaaudioのモニタースピーカで構成され、TV フロアーに出先のPRE-MIX ROOMがありここでまとめられた音声はA/D変換後光ファイバーで2階のサラウンドコントロールルームへ送られてきます。
2 今回の参加者
今回各地から参加したのは、2004年の広州での参加者が2/3とみんな顔なじみの人々で彼らは、「中国版サラウンドファミリー」といったところでしょう。北京からは北京情報通信大学 北京フィルムアカデミー、CCTVそして中国人民解放軍スタジオ(ここは解放軍のPR を担当するメディア部門です)
浙江省TV,広州TV,そしてホスト役となった山東TV 、機材と我々の通訳としてDolby北京の3名計15名が参加しました。
山東TVのMis.チンチンは、前回広州でのセミナーで、初顔会わせでもあったのかあまりしゃべりませんでしたが、今回はホスト役ということもあってか、大変活発なサポートを行ってくれました。ちなみに彼女は、ここでミキサーをやる前は北京でバイオリンを演奏し大学で教鞭をとっており北京フィルムアカデミー教授のJoeは教え子だそうです。ですから音楽制作には大変熱をいれています。
CCTVのドラマ部からきているWEINも2度目でしたが、今回スキンヘッドで登場したので「何か仕事でミスして頭を剃ったの?」と聞くと「自分で髪を切っていたら失敗して虎刈りになったので全部切ってしまった」とのことです。
3 中国制作のサラウンド作品
3-1 情報通信大学 Dakangのデモ
彼は、中国でも常に最新の技術を導入してきた教授として、一定の地位を確立していると北京フィルムアカデミーの教授JOEが、我々に話してくれました。今回は中国伝統芸能、クラシックオーケストラそしてチャイコフスキーの1812といった音楽を様々なサラウンドメインマイクを使用して録音したデモを再生しました。使用機材は大変豊富で収録もPYRAMIX DAWとTASCAM DA-99です。
楽曲自体もステージと客席に分かれた演奏があるなどサラウンドを意識した楽曲が選ばれています。収録された音も大変自然ですばらしいバランスでした。
1812では、ラストに大砲の音がでてくるのですが、派手に一音一音パンニングしてサラウンド感を盛り上げていましたが、大変きれいな音なので深田さんがこれはどうしたのか?聞いたところによると、ポストプロダクションの段階で大砲の音をサンプリングしてペーストしたそうです。深田さんは、同じペーストするにしても一度ホールなどに音をだして空気感を同一にしてからペーストすればもっと一体感がでたとアドバイスしていました。彼らのサラウンド側は、HAMASAKI SQUAERをメインとしています。
3-2 CCTV ドラマ部WEIのデモ
彼は、ホロフォンを使用した音楽収録実験のデモと、花山情という若者が桃源郷に迷い込むようなストーリーのドラマをデモしました。ドラマのサウンドデザインでは、音楽の使い方やFoleyのバランスなどについてコメントしましたが、映像も含め完成度の高いドラマ制作が行われています。彼の質問のひとつにダビングは映画スタジオを使用して行っているのですが、それが放送の段階になるとそこで聞いていたバランスと違うのはどうしてなのか?というのがありました。「再生環境に応じた最適モニターバランス」の大切さという点を強調し、こうした問題が解決出来ると言うことが理解されたようです。ちなみにダビングのDAWはプロツールズだそうです。
3-3 人民解放軍スタジオ LEWENのデモ
彼は今回初参加です。しかしそのデモは、最も私が感心したひとつでした。
みなさんもニュースなどで記憶にあると思いますが中国初の有人スペースシャトル神舟5号の打ち上げシーンをサラウンドで録音しています。その努力は3台のDATをリンクして5チャンネル録音し、かつ発射台のアーム先端には、MD-421ペアで発射の瞬間の音をNAGARAでとらえるという組み合わせです。
もうひとつのデモは、人民解放軍の上海解放を扱ったドラマでしたが、攻撃シーンのサラウンド音はまさにハリウッド並の音質とデザインでこれにはシャッポを脱いでしましました。「参りました!私もあなたのもとで働いて勉強したのですね。」と帽子をぬいで一礼すると、彼も起立敬礼でジョークを返してくれました。
中国語でマイクロフォンは「活筒」と書きます。デモクリップは「片段」
これは?「超心型」「心型」マイクの指向性です!
フィールド録音は「外景録音」よく理解できますね。
3-4 広州TV BANGJINGのデモ
Bangingは、広州でのセミナー時にホスト役を買ってでてくれた中年のおじさんで見かけからはとてもクラシックのサラウンドをやるような感じには見えませんが!今回は、オペラをデモしました。使用しているマイクもショップスの小型マイクで世界共通のツールを使用しています。深田さんのコメントでは、オペラの歌手が舞台を動いて歌うので舞台床に5ヶ所くらいフットマイクを置いておいて移動にあわせて切り替えていくと、もう少し鮮明に歌が聞こえるとアドバイスし実際の写真をNHKホールの例で示したところ全員パソコン画面に見入って熱心に質問していました。
3-5北京フィルムアカデミーJoeのデモ
彼もパーカション現代音楽などの音楽サラウンドと山の歩哨隊を描いたドラマをデモしました。とにかく様々な機会を利用して様々なマイキングでサラウンド録音に挑戦している態度は、大変感心します。山頂のシーンでは、山やまに響くこだまをサラウンドで効果的に表現していました。
JOEは、教授でもあり、かつ時間のある時は制作もしています。彼の生徒には大阪からきているアヤさんという女性ミキサーがいます。中国と日本の共同制作といった機会が増える中ビジネスチャンスも拡がっているということでした。別の機会に彼の一日はどんなスケジュールか話してくれました。朝から夕方までは講義を行い、夕方講義が終わるとマスタークラスなど特定の生徒と限定したテーマについて議論。夜帰宅すると少し寝て深夜から翌日の講義の準備。
時間があけば、自室のDAW スタジオでPRE-MIX や編集を行うそうです。
彼らの博学ぶりは、我々の比ではありません。特に内外の映画の名作は、ほとんど学校でコレクションしており、学生は在学中に3000本くらいの映画を勉強するそうです。現在は、アメリカ映画会社などと契約し、年間20-30本を定期的に購入してライブラリーを充実しているといっていました。
彼の好みはフランスやイタリアのネオリアリズム作品や北欧だそうで、ハリウッド的エンターテイメントは肌に合わないそうです。でもハリウッドで活躍している中国の監督は大変誇りに思っているようでした。日本からも中国の映画製作を勉強にくる留学生が少しづつ増えたといっていますが、おもに映像のほうで彼のように音声で留学希望はまだ少ないそうです。
3-6山東TV SHAOYUANのデモ
山東TV初のハイビジョン、サラウンド制作が昨年暮れに2006年新年の音楽会として制作されたデモです。番組は、公開でセレモニー好きの国らしく最前列には山東省各界のお歴々がすわっていました。TV スタジオは音楽録音も出来るようにと暗騒音レベルは大変低く聴感上はNC-15くらいに静かでしたが、さすがにクラシック録音だからかスタジオの暗騒音は気になりました。
2007年にPRE-オリンピックとなるアジア大会が、ここ山東省を中心に開催されるそうで、山東TVはそのメインホストとしての大役を担うのだと大変張り切っています。
3-7Dolby スポーツサラウンド デモ
最後にDOLBYのNICHRASがスポーツサラウンドの実験としてデモしてくれたのは中国で人気のバトミントンです。会場の熱気や応援団の歓声も大変効果的にMIXされており、この分で勉強すれば2008年北京オリンピックはいい線いくのでは?と期待がもてるデモでした。
4 講評とパネルディスカッション
初日が終わった夜に、お茶をしに「TEA HOUSE」にいきましたが、そこでも熱心な議論が継続し我々も色々な質問に加わりました。なかでも音楽関連はみんな熱心で深田さんの周りは質問者の輪になっていました。お茶といっても日本酒のおちょこくらいのカップで、少しづつお茶を飲みながら延々と話をするのが知識人なのだそうです!ここ中国でも「沈黙は金ではなく無知」と捉えられるのだそうで、みなアメリカ人並にしゃべりますね。浙江省TVからきたHUIMINは顔達が日本の典型おじさん風なので、みんなから「太郎」と命名された人ですが、近々録音中継車を建設予定で拡幅構造の車体だそうです。質問はITU-Rの配置にできるほどスペースがないので、どうしたらいいか?ということでしたが、日本でも中継車では理想的なモニター環境は難しいので、許容度とチャンネル間のモニターレベルをきっちり合わせることで大丈夫ですよと話すと大変納得したようです。また私のHP[サラウンド寺子屋]を読んでいるひともいて北京でやりたいと思っているが、どういった運営方法をしているのか?どういった人が集まってどんな勉強をしているのか?などの質問もでました。
やはり英語版もださねば・・・・・
いよいよ最終日も終わりました。みんなは2年前とどれくらい変化したのか?を聞きたいとリクエストがありましたので、各人のデモも含めて講評と具体的なアドバイスを示すことにしました。彼らは、実際の制作人ですので、あまり理屈ばかりならべるとそっぽをむいてしましますので、可能な限りそれぞれのデモに関連して具体的なアドバイスを示すのが一番効果的だと思っています。2年前から驚異的な進歩で感心しました、としめくくると一同大変安心した様子でした。
最後に深田さんからプロとして大切な3要素として
● いつも新しいことに挑戦
● 感動する心を大切に
● 音は可能なかぎり純粋に録るというアドバスをして第2回中国サラウンドセミナーも無事閉会です。次回はオリンピックの年2008年になりそうです。
おわりに
2年前にくらべ各人のスキルははるかに向上していました。まだTV放送はモノーラルしかやっていない中で、こうした努力を積み重ねている姿は、我々も大いに触発されます。省によっては、映像だけハイビジョンを導入し音声設備は従来のままといった局もあるそうですが、そこは各局の担当者の熱意の温度差が現れているのでしょう。オーガナイザー役のElitenはじんせんTV所属ですが「私のところは反応が鈍い」とこぼしていました。私がサラウンドを始める第一歩として「まず上司を説得」といっている原則はここ中国でも適応できそうです。事実山東TVは、音声部長のShayuanとチーフのQuing quingの2人の次世代のためにサラウンドにしておきたいという熱意が、局長Hannを動かして導入に至ったわけですから。6月には冨田勲さんが、上海音楽院の招聘でサラウンド音楽作曲の講演にでかけると聞いています。こうして様々な切り口でサラウンドに進展があることを期待しましょう。なにせ一度やる気になれば、そのエネルギーは並み大抵ではありません。 再見!
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
第2回中国サラウンドセミナーin 済南 山東TV レポート
私は、現在日本の各放送局がデジタル放送で制作しているスポーツサラウンドの紹介を担当し、音楽制作については、ベテラン深田晃さんに依頼して出かけることにしました。第2回目となった中国のサラウンド制作者の熱い情熱と取り組みについて報告します。寺子屋のメンバーのみなさんにもいい刺激があるのではないかと思います。
1 山東省済南市の山東TV放送
山東省は、黄河が黄海、渤海へと流れ込む入り江に位置した人口9000万の省です。ここは中国でも歴史の長い地域であり、儒教の発祥孔子の生まれ育った町、曲阜孔子廟は世界自然遺産に指定され、毎日多くの訪問者でにぎわっており、中国5山の一つである泰西山を頂いています。
山東省の省都済南市にある山東TV局は、1960年に開局現在で45年の歴があります。2004年の秋に新しくTVスタジオを建設し、その設備を映像はハイビジョンに音声は、サラウンド対応の設備とした最新のスタジオです。放送局長のHANN氏は、我々のセミナー歓迎セレモニーの中で「我々は中国全土にある中央TV局のなかでも現状に甘んじることなく、お互いが競争することでトップクラスの人材を育てていく方針でこのスタジオを建設した」と彼の経営方針を説明してくれました。彼の前身の局長は「何事も現状維持主義」だったそうですが、彼が局長となってからは、局内にいい意味の緊張感と向上心が芽生えたと音声部長のMr.YU が我々に話してくれました。ここがいままでのCP中心主義と異なってきた大きな原動力だと思います。
音声コントロールルームはユーフォニックスS-5をメインにDynaaudioのモニタースピーカで構成され、TV フロアーに出先のPRE-MIX ROOMがありここでまとめられた音声はA/D変換後光ファイバーで2階のサラウンドコントロールルームへ送られてきます。
2 今回の参加者
今回各地から参加したのは、2004年の広州での参加者が2/3とみんな顔なじみの人々で彼らは、「中国版サラウンドファミリー」といったところでしょう。北京からは北京情報通信大学 北京フィルムアカデミー、CCTVそして中国人民解放軍スタジオ(ここは解放軍のPR を担当するメディア部門です)
浙江省TV,広州TV,そしてホスト役となった山東TV 、機材と我々の通訳としてDolby北京の3名計15名が参加しました。
山東TVのMis.チンチンは、前回広州でのセミナーで、初顔会わせでもあったのかあまりしゃべりませんでしたが、今回はホスト役ということもあってか、大変活発なサポートを行ってくれました。ちなみに彼女は、ここでミキサーをやる前は北京でバイオリンを演奏し大学で教鞭をとっており北京フィルムアカデミー教授のJoeは教え子だそうです。ですから音楽制作には大変熱をいれています。
CCTVのドラマ部からきているWEINも2度目でしたが、今回スキンヘッドで登場したので「何か仕事でミスして頭を剃ったの?」と聞くと「自分で髪を切っていたら失敗して虎刈りになったので全部切ってしまった」とのことです。
3 中国制作のサラウンド作品
3-1 情報通信大学 Dakangのデモ
彼は、中国でも常に最新の技術を導入してきた教授として、一定の地位を確立していると北京フィルムアカデミーの教授JOEが、我々に話してくれました。今回は中国伝統芸能、クラシックオーケストラそしてチャイコフスキーの1812といった音楽を様々なサラウンドメインマイクを使用して録音したデモを再生しました。使用機材は大変豊富で収録もPYRAMIX DAWとTASCAM DA-99です。
楽曲自体もステージと客席に分かれた演奏があるなどサラウンドを意識した楽曲が選ばれています。収録された音も大変自然ですばらしいバランスでした。
1812では、ラストに大砲の音がでてくるのですが、派手に一音一音パンニングしてサラウンド感を盛り上げていましたが、大変きれいな音なので深田さんがこれはどうしたのか?聞いたところによると、ポストプロダクションの段階で大砲の音をサンプリングしてペーストしたそうです。深田さんは、同じペーストするにしても一度ホールなどに音をだして空気感を同一にしてからペーストすればもっと一体感がでたとアドバイスしていました。彼らのサラウンド側は、HAMASAKI SQUAERをメインとしています。
3-2 CCTV ドラマ部WEIのデモ
彼は、ホロフォンを使用した音楽収録実験のデモと、花山情という若者が桃源郷に迷い込むようなストーリーのドラマをデモしました。ドラマのサウンドデザインでは、音楽の使い方やFoleyのバランスなどについてコメントしましたが、映像も含め完成度の高いドラマ制作が行われています。彼の質問のひとつにダビングは映画スタジオを使用して行っているのですが、それが放送の段階になるとそこで聞いていたバランスと違うのはどうしてなのか?というのがありました。「再生環境に応じた最適モニターバランス」の大切さという点を強調し、こうした問題が解決出来ると言うことが理解されたようです。ちなみにダビングのDAWはプロツールズだそうです。
3-3 人民解放軍スタジオ LEWENのデモ
彼は今回初参加です。しかしそのデモは、最も私が感心したひとつでした。
みなさんもニュースなどで記憶にあると思いますが中国初の有人スペースシャトル神舟5号の打ち上げシーンをサラウンドで録音しています。その努力は3台のDATをリンクして5チャンネル録音し、かつ発射台のアーム先端には、MD-421ペアで発射の瞬間の音をNAGARAでとらえるという組み合わせです。
もうひとつのデモは、人民解放軍の上海解放を扱ったドラマでしたが、攻撃シーンのサラウンド音はまさにハリウッド並の音質とデザインでこれにはシャッポを脱いでしましました。「参りました!私もあなたのもとで働いて勉強したのですね。」と帽子をぬいで一礼すると、彼も起立敬礼でジョークを返してくれました。
中国語でマイクロフォンは「活筒」と書きます。デモクリップは「片段」
これは?「超心型」「心型」マイクの指向性です!
フィールド録音は「外景録音」よく理解できますね。
3-4 広州TV BANGJINGのデモ
Bangingは、広州でのセミナー時にホスト役を買ってでてくれた中年のおじさんで見かけからはとてもクラシックのサラウンドをやるような感じには見えませんが!今回は、オペラをデモしました。使用しているマイクもショップスの小型マイクで世界共通のツールを使用しています。深田さんのコメントでは、オペラの歌手が舞台を動いて歌うので舞台床に5ヶ所くらいフットマイクを置いておいて移動にあわせて切り替えていくと、もう少し鮮明に歌が聞こえるとアドバイスし実際の写真をNHKホールの例で示したところ全員パソコン画面に見入って熱心に質問していました。
3-5北京フィルムアカデミーJoeのデモ
彼もパーカション現代音楽などの音楽サラウンドと山の歩哨隊を描いたドラマをデモしました。とにかく様々な機会を利用して様々なマイキングでサラウンド録音に挑戦している態度は、大変感心します。山頂のシーンでは、山やまに響くこだまをサラウンドで効果的に表現していました。
JOEは、教授でもあり、かつ時間のある時は制作もしています。彼の生徒には大阪からきているアヤさんという女性ミキサーがいます。中国と日本の共同制作といった機会が増える中ビジネスチャンスも拡がっているということでした。別の機会に彼の一日はどんなスケジュールか話してくれました。朝から夕方までは講義を行い、夕方講義が終わるとマスタークラスなど特定の生徒と限定したテーマについて議論。夜帰宅すると少し寝て深夜から翌日の講義の準備。
時間があけば、自室のDAW スタジオでPRE-MIX や編集を行うそうです。
彼らの博学ぶりは、我々の比ではありません。特に内外の映画の名作は、ほとんど学校でコレクションしており、学生は在学中に3000本くらいの映画を勉強するそうです。現在は、アメリカ映画会社などと契約し、年間20-30本を定期的に購入してライブラリーを充実しているといっていました。
彼の好みはフランスやイタリアのネオリアリズム作品や北欧だそうで、ハリウッド的エンターテイメントは肌に合わないそうです。でもハリウッドで活躍している中国の監督は大変誇りに思っているようでした。日本からも中国の映画製作を勉強にくる留学生が少しづつ増えたといっていますが、おもに映像のほうで彼のように音声で留学希望はまだ少ないそうです。
3-6山東TV SHAOYUANのデモ
山東TV初のハイビジョン、サラウンド制作が昨年暮れに2006年新年の音楽会として制作されたデモです。番組は、公開でセレモニー好きの国らしく最前列には山東省各界のお歴々がすわっていました。TV スタジオは音楽録音も出来るようにと暗騒音レベルは大変低く聴感上はNC-15くらいに静かでしたが、さすがにクラシック録音だからかスタジオの暗騒音は気になりました。
2007年にPRE-オリンピックとなるアジア大会が、ここ山東省を中心に開催されるそうで、山東TVはそのメインホストとしての大役を担うのだと大変張り切っています。
3-7Dolby スポーツサラウンド デモ
最後にDOLBYのNICHRASがスポーツサラウンドの実験としてデモしてくれたのは中国で人気のバトミントンです。会場の熱気や応援団の歓声も大変効果的にMIXされており、この分で勉強すれば2008年北京オリンピックはいい線いくのでは?と期待がもてるデモでした。
4 講評とパネルディスカッション
初日が終わった夜に、お茶をしに「TEA HOUSE」にいきましたが、そこでも熱心な議論が継続し我々も色々な質問に加わりました。なかでも音楽関連はみんな熱心で深田さんの周りは質問者の輪になっていました。お茶といっても日本酒のおちょこくらいのカップで、少しづつお茶を飲みながら延々と話をするのが知識人なのだそうです!ここ中国でも「沈黙は金ではなく無知」と捉えられるのだそうで、みなアメリカ人並にしゃべりますね。浙江省TVからきたHUIMINは顔達が日本の典型おじさん風なので、みんなから「太郎」と命名された人ですが、近々録音中継車を建設予定で拡幅構造の車体だそうです。質問はITU-Rの配置にできるほどスペースがないので、どうしたらいいか?ということでしたが、日本でも中継車では理想的なモニター環境は難しいので、許容度とチャンネル間のモニターレベルをきっちり合わせることで大丈夫ですよと話すと大変納得したようです。また私のHP[サラウンド寺子屋]を読んでいるひともいて北京でやりたいと思っているが、どういった運営方法をしているのか?どういった人が集まってどんな勉強をしているのか?などの質問もでました。
やはり英語版もださねば・・・・・
いよいよ最終日も終わりました。みんなは2年前とどれくらい変化したのか?を聞きたいとリクエストがありましたので、各人のデモも含めて講評と具体的なアドバイスを示すことにしました。彼らは、実際の制作人ですので、あまり理屈ばかりならべるとそっぽをむいてしましますので、可能な限りそれぞれのデモに関連して具体的なアドバイスを示すのが一番効果的だと思っています。2年前から驚異的な進歩で感心しました、としめくくると一同大変安心した様子でした。
最後に深田さんからプロとして大切な3要素として
● いつも新しいことに挑戦
● 感動する心を大切に
● 音は可能なかぎり純粋に録るというアドバスをして第2回中国サラウンドセミナーも無事閉会です。次回はオリンピックの年2008年になりそうです。
おわりに
2年前にくらべ各人のスキルははるかに向上していました。まだTV放送はモノーラルしかやっていない中で、こうした努力を積み重ねている姿は、我々も大いに触発されます。省によっては、映像だけハイビジョンを導入し音声設備は従来のままといった局もあるそうですが、そこは各局の担当者の熱意の温度差が現れているのでしょう。オーガナイザー役のElitenはじんせんTV所属ですが「私のところは反応が鈍い」とこぼしていました。私がサラウンドを始める第一歩として「まず上司を説得」といっている原則はここ中国でも適応できそうです。事実山東TVは、音声部長のShayuanとチーフのQuing quingの2人の次世代のためにサラウンドにしておきたいという熱意が、局長Hannを動かして導入に至ったわけですから。6月には冨田勲さんが、上海音楽院の招聘でサラウンド音楽作曲の講演にでかけると聞いています。こうして様々な切り口でサラウンドに進展があることを期待しましょう。なにせ一度やる気になれば、そのエネルギーは並み大抵ではありません。 再見!
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
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