By. Mick Sawaguchi
2009年1月25日 株式会社ダイマジック Mix-A にて
テーマ:国際共同制作におけるサラウンド制作
講師:内村 和嗣(株式会社NHKメディアテクノロジー)
沢口:2009年1月のサラウンド寺子屋は、海外の人と共同で制作をする時に、どういった観点が大切か?を取りあげました。日本人だけだと問題ないようなことも、海外の方は色んな考えがあります。これがまさに思考回路のサラウンドだなと思うんです。今回は、株式会社NHKメディアテクノロジーの内村さんにお話しして頂こうと思います。内村さんが初めて海外の方達とサラウンドで制作を始めたのは2003年で中国の茶葉古道というドキュメントです。茶葉古道をやった後はBSでの遭難をテーマにした作品、ハイアドベンチャーという山の物語の作品や、皆さんの良く知っているマーティンスコセッシ監督のドキュメントを担当。スコセッシは、ここのところ良くミュージシャンのドキュメントをよくやっています。その一本です。本日のデモで使用する近作がホラー系のサラウンド作品です。この作品のサウンドデザインがとっても良く出来ているので今日は皆さん是非楽しみにして下さい。そして毎回この素晴らしいスタジオを提供して頂いている染谷さん谷口さんにも感謝です。それでは、よろしくお願いします。
内村:NHKメディアテクノロジーの内村と申します。インターナショナルコ.プロダクションと呼ばれておりますが、日本でいいますと国際共同制作といいます。今回は、今までどういう事をやっていたか、それにおける問題、それをどういう風に考えてきたか、どういう風に接してきたかという事、それに加え去年制作した「異界百物語」というかなり凝った作品を交えてサラウンドの事、サウンドデザインの事などをお話しできればと思います。まずこれまでの私の経験から学んだ「国際共同制作のつぼ」をお話しします。
*Co-Production Session成功のために
・契約内容を明確に。どういうところをどこまでやるのか?
→日本のプロデューサーと、海外のプロデューサー・技術責任者と。
・互いの制作行程、手法をスタジオに入る前に確認する。日本と欧米(特に米)は手法が全然違う。
→日本、海外のプロデューサーと。費用の問題が付きまとうため。
・議事録を必ず残す。言った言わないのトラブルが多い。
・普段から海外の方法を学んでおく。AES、InterBEE、寺子屋など。
・方法論を確認しながら作業を進める。
Q:国際共同制作でプロデューサーと監督、ディレクターなどがいた場合、こちら側から使い分ける方法は?
A:私がやったプロジェクトの場合、プロデューサーが権限を持っている場合が多いです。ドキュメンタリーの場合あまり多い人間でつくっていないからかもしれません。
Q:では我々がやる場合は、プロデューサーが誰なのかを見極めて、その人としっかり話をすると問題はあまりないと考えれば良いですか?
A:そうですね。
Q:それは国際共同制作ならではということでしょうか?
A:そうかもしれません。ディレクター兼プロデューサーという意識の方が多いのかもしれません。
Q:日本と海外で複数のプロデューサーの力関係は?
A:海外にはプロデューサーが複数いるはずで、その中からまかされているので、非常に意識が高く、その人が仕切ることが多くなってきてしまう。演技などまでにもおよびます。
Q:著作権はどのような形ですか?
A:ピッチングセッションで決めます。こちらは、放送権だけなのか、制作に費用を出して意見も言うのかなど。
Q:最終納品形体を教えて下さい。
A:それぞれですが、マスターをネットで渡すことはありません。テープ媒体です。希望があれば音素材だけに関してはWAVEファイルでDVD-Rで渡します。制作段階ではネットでやり取りしていますが、マスターをネットでやり取りすることはありません。
Q:日本人が一番気をつけなければいけないことは?
A:海外で一般的な専門分業化したセクショナルリズムがベストではないということです。マルチでいろいろと出来る人やセクションを越えて意見がいえる人は欧米では歓迎されるので、そういった点は日本人としてアピールしていいと思います。ほかには、指定時間以外に作業をすることは、やめた方がいいと思います。海外の人達はその作業に対してお金が発生するものだと考えてしまうので、サービス残業は基本的にありません!
Q:お国柄の違いは?
A:欧米のやり方と、中国では全く違いましたので、やはりお国柄はありです。
Q:なにか困ったことはありましたか?
A:打ち合わせと違った素材が納品されたり、期限に素材が来なかったりすると何も出来ないので困りました。
Q:その対策などありますか?
A:是非皆さんにも対策を考えていただきたいです。(笑い)とにかくおかしいなと思ったら早く対処(説明も)することが大切です。日本は暗黙の了解の国ですが、海外の人とはそういったことはいっさい無いと思っていいと思います。
Q:サウンドデザインに重要なことは何でしょうか?
A:
*音に携わることだけでなく、脚本段階から接する。
*サウンドデザイナーは様々な知識や技術が必要です。
(芸術、科学、常識、エンジニアリング、音の歴史、海外含むメディア事情、機材の知識、努力、体力)
内村:今日は、染谷さんにも色々ご尽力頂きまして、聴けるように最終的なプリミックスの素材を全部持ってきてありますので、時間がありましたら全てお聴かせできるようにしてあります。そして質問などがありましたら、その時々で言って下さい。答えていきます。その方が面白いセッションになると思います。これもインターナショナルな時では大切で、思ったらすぐ言う事も大事です。
1 2003年初めの一歩 同期の話 テクニカルな意思疎通の重要性
2003年に「茶葉古道」というドキュメンタリをやりました。これが私に取ってインターナショナルコプロダクション(国際共同制作)の本格的な一歩です。
デンソウソウさんという中国の大変有名な監督がいらっしゃいまして、彼は非常に質の高い芸術的な作品を作ってきた方ですが、その方が初めてドキュメンタリーを監督した作品です。その作品は初めての事が色々ありまして、放送。映画。DVDも作る。そして24PのHDで録るというすべて初めてづくしのプロジェクトでした。
当初はテクニカルコーディネーターとファイナルミックスをやってくれ。というお話だったのですが、結局色々やらなければいけなくなったんです。正直コラボレーションするには相当大変な相手だったんです特にテクニカルな技術スタッフとの交流が向こうはフィルムオンリーでの制作.こちらはマルチメディア対応ということで意思の疎通が相当大変だったです。
映像で言えば、彼らはPALなんですが、僕たちはNTSCの世界ですから、ジャスト24Pで録られてしまうと方式変換後に音と映像がずれてしまいます。それを解消する為に23.976フレームで録って下さいと色々な説明をして、了解が得られたという話になっていたのですが、送られてきたものがやっぱり24Pで来てしまったんです。(一同笑い)
テクニカルスタッフとは英語で話し、中国人のトランスレーターも居てくれたんですが、グジャグジャな話になってしまいました。これが大変でした。それを解決するのも勉強になりました。中国のテクニカルスタッフの感性というものは本当に素晴らしいのですが純粋テクニカルの面では苦しいです。このプロジェクトのようにNTSCとPALと全て映像と音声を満足させる同期という事は世の中でもにもまだやっていなかったので、制作リポートをAESで発表する事につながったのも僕にとって良かったです。このプロジェクトで、色々な人との接し方というのも勉強させてもらいました。
2 サウンドエディターとの共同作業 自分の意思を明確にもって仕事する
次の作品が世界の高峰シリーズ(ハイアドベンチャー)これはデンさんとやったすぐ後にやったんですよ。若かったんだなぁ。当時は体力あったんだと思います。これはアメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、日本と五カ国の合作のコープロダクションでした。その全ての国で放送しました。 これはシリーズで4本作りました。場所はアメリカのマッキンリのデナリという山と、アフリカのキリマンジャロとヨーロッパのモンブランと南極のビンソンマシュフのドキュメンタリーです。山のドキュメンタリーというのは想像するにのどかなイメージとか景色が良くてというのを想像されると思いますが、この作品は違うアプローチをしておりまして、イメージとしてはアメリカのERなどを彷彿させるようなスピーディーな展開と、人の命をどう救うのかなどという事がテーマの作品です。
実際にこの作品に関わったスタッフが命を落とすような、大変な作品でした。これはアメリカのPBSという公共放送。公共放送というのはNHKかBBCぐらいしか無いのだと思っている方もいるようですが、アメリカで古い歴史のある局なんですよ。そこのフィルムエディターとセッションできたことは、僕にとってはとても良かったと思います。仕上げてきたもののDMEをサウンドデザインブラッシュアップするという仕事で、サウンドエディターとファイナルミックスを担当したんです。彼はかなり鋭くて、自分がこれはどうなんだろうと思った所に良い意味で必ず突っ込んできて、それはどういう風に考えてやっているんだ?という質問はかなりされました。とっても刺激的なプロジェクトでした。
3 作曲家バルとの共同作業 事前作業の重要性
2005年に作ったのは祖国を奪われた人々という作品です。これは日本とアメリカでのセッションでした。これは完全に日本側に主導権があった作品です。取材が殆どペルーで行われたのですが、その為にアメリカの協力が必要だった事と、映像のエディターとコンポーザーがL.Aに住んでいて、プロデューサも向こうに住んでいて、NHKのディレクタと仕事をしたという感覚です。この作品では今では当たり前になっているハイテク機器、ディジデリバリやi-ディスクなどを使い事前の素材のやり取りをおこない準備に十分な時間を使いました。
この作品ではポストプロダクションのサウンドデザインとファイナルミックスを担当しました。 コンポーザのバルさんと仕上がる3ヶ月前からi-ディスクをつかって常に連絡を取り合ってました。 例えばラフの編集が上がったよなどとi-ディスクに上げてもらい、みんなで見に行き、それをダウンロードして音をつけてまたi-ディスクに上げる。それをバルさんが見るというように仕事を進め方をしました。最終的にはバルさんも呼んで日本で10曲ぐらい作ってもらって、また仕上げてというやり方をしました。
例えば、パソコンで一緒に絵を見ながらその場で音楽を作りました。その時の模様も面白かったので、国際共同制作などの流れをテーマにした説明会を開きました。
i-ディスクがとても便利なのは距離や時間を超えて容易にに色んな情報を交換できるという事です。制作費の軽減にもつながりクオリティもアップします。
Q:どれくらいの回線でどれくらいの情報量をやりとりしていたんですか?
A:プロデューサに一つのディスクを何GBという形で買ってもらって、光でやっていれば普通のOMFファイルの2時間ぐらいのものが今だとすぐ出来ます。出来るだけ情報量は少なくします。
デジデリバリーだとセッションファイルも送れるのでなお良いです。でも普通のOMFファイルで十分かとは思います。
4 BBCとの初サラウンド制作 プリミックスの大切さ
その次の作品は同じく2005年のスーパーボルケーノという作品です。これもまた渋い作品でBBCの5.1chの初めての作品です。BBCが初めて科学部とドラマ部が一緒になって作ったサイエンスドキュメンタリードラマです。それとディスカバリーチャンネルが資本だして、恐らく日本も融資したんでしょう。
ファイナルミックスは私が担当しました。この作品は染谷さんにもお世話になった作品で、DME素材が来て当時NHKにすぐ素材を確認できるスペースが無かったのでこちらで確認させてもらった所、もう元気一杯全編フルビットという状態でして、このままでは放送にならないような状態だったんです。このままダウンミックスしたら、全部歪んでるんじゃないかという状態で送られてきたんです。(一同笑い)
あとエネルギーの表現の仕方が元気が良すぎてしまうんでこれはもうダイナミクスの再調整が必要じゃないかということで、DMEからもう一度編集し直しました。もう爆発ばっかりなんですよ。ドワーン。ブシュー。ガバーというような、もうエキスプロージュンの嵐といった感じです。言葉しゃべっているのにブシューとか鳴ってるのもありましたね。
5 マーティンスコセッシ監督とのコラボ 映画館サラウンド設備とのたたかい
次に私にとってラッキーだったのは、マーティンスコセッシ監督のボブディラン「ノーディレクションホーム」という作品です。これはファイナルミックスだけだったんですけど、結局はテクニカルコーディネーターもやりました。日本の映画館で上映する為にちょっと技が必要だったんです。単館で上映しましたが、そこに今まで5.1ch上映が入るチャンスがなかったんです。それで自分の作品がどういう風に上映されるのかが不安でしたので事前チェックした所、サラウンドチャンネルが逆位相だったり、5.1chという概念がなかったりドルビーデジタルのデコーダがあってもそれがバイパスされていたりとか、結局ステレオでしか流れてなかったりと、すごい状態のものがあったので、それを全部オーナーにいってその手配もさせて頂いてチューニングもしました。
Q:それは一カ所だけの上映ですか?
A:いえ何カ所もあります。都内は回りました。
6 異界百物語の制作 コラボ用トレーラー(予告編)とピッチセッションの重要性
そしてこれからお話しさせて頂く日米合作のドキュテイメント異界百物語を2008年、担当しました。これは全ての事に携わらせて頂いて、企画段階から、フィールド録音、ADR、フォーリーのレコーディングとミキシング。サウンドデザイン、スーパーバイザー、プリミックス、ファイナルミックスと全部やったということです。大変でした。 まだ続いてますけども。どういう内容なのか、まず雰囲気を分かって頂く為に20分位(デモを)見て頂きます。
(デモ)
内村:まあ、こんなような・・・しーんとなってしまいましたが、まあ、しーんとなってもらえたら少しは成功したんじゃないかと、今お見せしたとおり、日米合作の制作で、今のところ5カ国で放送が決まってまして、アメリカでは劇場公開も予定しています。日本人のもつ感性、異界感ていう文化を掲げている内容なんですけれども。で、その感覚っていうのはどうやら日本人以外にあまりないっていう。ですけども今、海外にそれが理解されています。「Jホラー」という形で。監督はNHKの浜野さんとアメリカではデボラー・アンデスノさんていう方が監督しています。この2人監督というのが大変でした。彼は・・つまり浜野が監督役をやる時はデボラはプロデューサーで、プロデューサーを浜野がやる時はデボラが監督という、で、Jとインターナショナルと両方撮影や収録をしなければいけないし、考え方も違うし、彼らの言い分を聞いて技術的にどういう表現ができるのかという事を表現する事がとっても大変でした。
Q:日本での公開はありましたか?
A:日本は放送で・・もう放送してしまったんですけれど。別のバージョンもこれから放送するんです。
内村:この作品は2005年からプロジェクトがスタートしたんです。すごく長いプロジェクトで3年もかかってしまったんです。
トレーラー(予告編PR)の重要性についてお話します。トレーラー制作は、国際共同制作には重要な意味をもっています。事前の公開提案議会というのがあってですねこれをピッチング・セッションといいます。この目的は資金集めですね。こういう作品をつくる時には非常にお金がかかるんですけれども、放送局ですからそんなにお金をもっていないんですよね。映画と違って、電波の世界だけなのでそんなにお金は掛けられないです。だから、色々なところに提案を投げかけるんです。提案を投げかけて売り込むという事をやるんです。それをピッチと言います。ピッチングセッションを行って、賛同してもらったところからお金を集めて、制作に取り組むというのが国際共同制作の一般的なスタイルです。それでここにありますファースト・トレーラーを持ってパリとEBUとIDFAという、インターナショナルドキュメンタリーフィルムアムステルダムというアムステルダムにとても大きいピッチングセッションがあります。3回目のトレーラーをつくった時にはトロント、これも大きなピッチでTDF(トロントドキュメンタリーフォーラム)というのがありましてここでお金を集めるという、こういう形で一人20分から30分、各国のプロデューサーが自分たちのトレーラーや企画書を持ち込んで宣伝します。そして、賛同してもらった人間と個別に話をしてお金を集めていくという、ピッチングセッションというのを必ずおこなっていくというスタイルです。
では、初回のピッチセッション用に制作したトレーラをデモします
(デモ)
内村:これは実はすごく評判がよくてですね、たくさん賛同してくれて、この時お金がすごく集まってそのままやれば良かったのですが。次にお見せするのが、撮影しながらつくった3回目のです。
(デモ)
Q:最後クレジットが3つならんでいましたけれども、いわゆるピッチというのは、その、仲間を見つけるというのではなくて、売り先をみつけるみたいな考え方でいいのですか?
A:両方あります。いまは、3つ(クレジット)あったんですけど、これは台本の段階で、というか企画書の段階で3つ集まったんです。それで、トレーラーをつくる為にお金も出たので・・・ミストラルと最後出ましたけれども、このCGの映像はそのミストラルの映像です。ほんとは僕も彼とやりたかったんですけれどね。とてもファンタスティックなCGだったんですけれども・・・。
次のは、トロントにもっていったものです。
(デモ)
内村:この時のアピールは、もう完成間近ですよっていう感じを高めて、ピッチでやります。
7 共同制作でのフローと注意点
それでは、実際にサウンドデザインするにあたって、セッションというのはどういうものがあるのかをあらためて書き出してみました。僕にとっては以下の流れとなります。
*セッションの種類
・Meeting:technical 、sound department、post department
・Location:Meeting Sound Design
・production Sound Editing
・ADR session
・Foley session
・Scoring session
・Premix
・Final Mix/Mastering
・Data Files Back up
内村:まずミーティングというのはとっても重要です。ディレクターとの話ですね。脚本に対してというのが一番重要です。それから、その後で技術的なミーティングですね、プロデュ-サー、ディレクター交えながら、テクニカルディレクターやカメラマン、フォトグラファー、ライティングディレクターとオーディオの方ですね。それでミーティングをする。それから音全体のサウンドデパートメント、サウンドに関わる人間とで話していくという。それから、ポストプロダクションのグループですね。CGの人たちとか、映像のエディターとかで音のチームという。それで打ち合わせをします。これはとっても重要です。
それから実際のロケーションがあるわけですね。それとロケーション後にディレクターとサウンドデザインに対してのミーテイングをやります。それから、プロダクションサウンド、実際に録ってきたものの編集を行います。編集を行う前からだいたい分かりますけれども、
ADRセッション、つまりどういうところをADRしなければならないのかがはっきり分かりますので、ADRセッションを行います。そして、フォーリーセッションを行って、音楽のスコアーリングセッションを行います。
すべての音の素材がそろいますのでプリミックスしてファイナルミックス。あとはバックアップという、こういう事が僕たちのセッションに関わる事ではないかと思います。
今回の制作では、ロケーションが大体7月の4日から12月までフィールドレコーディンクしたりドラマの台詞を録ったりというフィールド録音ですね。ダイヤログは通常ドラマとかで良く使われるタイプのMKH-416、816をベースにMKH-40や70、これとっても良いマイクなので、これを使っています。仕込みはMK2、MK4をダイアローグに使っています。それでサラウンドの収録ではDPAのコンタクトマイクを使って、後で説明します「umbrella ブーム」を使っています。あとSANKEN WMS5というマイクもよく使いました。ドライブショットなんかでガンマイクと同じような形状をしていますので、そういう移動感を録ったりするのにとても重宝していました。ステレオではCSS5マイクを使ったりもしますが、ワンポイントで録れたりとか、ベースノイズをちょこっと録ったりするときはCSS5で録ってました。レコーダーは今もっともっと良い物が出てきましたが、この時は、PD-6でとってました。サラウンドの素材とかドラマのロケーションのダイアローグ分を録ったりです。あとR-09も使っています。ダイアローグのバックアップとしてだけではなくてR-09を2つ使ってですね。2台をこうやってやると(両手を広げる)結構なQUADで録れて、では、シンクロはどうするのかと言いますとシンクロは手カチ入れてやって後で合わせています。これは結構なかなか良い広がりで、ローエンドもなかなか出ていて有効でした。
Q:それはEQとかはかけるのですか?
A:あとでプリミックスの時にかけたりしますけれども、かけるときは掛けますけれどもフラットで良いものも結構あります。適材適所ですね。内蔵のマイクだけなんですけれどもなかなか良いものが録れていました。
Q:手カチで大丈夫なんですか?
A:録音前に手をたたくだけです。ProToolsだとサンプル単位で合わせるじゃないですか?で聞いてみて、ダウンミックスしてステレオとかモノでシュワシュがいってなかったらもうOKです。逆にわざとずらしてやると、こっちも広がりいいなあと思うときはそれを使ったりもします。もうアブノーマル、ノーマル、OKです。
Q:やり方として注意した点とかは無いのですか?
A:いえ、もう手カチで・・・。合ってるはずだろうシンクです。まあ、ベースノイズに使う目的であれば十分ですね、何十分も回してやる訳じゃないしデジタルの内部クロックで問題ないです。
Q:長時間の場合はどうでしょうか?
A:長時間の場合はずれが心配になりますので本格的にFostex PD-6ですね。
聞いてみて良い結果が出ていれば僕はそれで良いと思いますが。チャンネル間で位相シフトおこしてシュワシュワ言わなければ大丈夫だと思います。位相差のチェックという点で言えば、例えばミックスの時でもプリミックスのときでもモニターモードをコンソールでつくっておいて5.1OUTをダウンミックスして聞いて、それがモノにいく、モノもファンタムモノとハードモノと聞きます。それが全部OKでないと、っていうチェックは必ずします。それをスモールとラージモニターで、だからかなり、カチャカチャカチャカチャやってます。それですべてをOKしないと放送の時になんかあったらまずいので、虫の音が入っているベースノイズは要注意ですね。これはちょっと位相がずれるとシュワーッと言いますから、かなり注意しています。
とても良い質問をありがとうございました。
内村:ミキサーは6chのカートに入れて使っているのは、424というフェーダーユニットと一緒になっているものです。それとショルダータイプでいくのは古い302というのですね。ロケはこんな感じです。
(画像)
VEさんがすごくいい人だったので、Hi-Visionモニターで見れています。大切ですよね、映像のディテールってのはとても重要で、これがHi-VisionとSDと違うんですよね。ヤバい!仕込み見えてたよみたいな・・・。
これがさっき言ってたumbrella Micっていうんですけれど、これはまあ、ドラマでまあこういう風にやってたからアシスタントがついてくれたんですけれど、これを一人でやったりもします。僕はこのドラマのロケの時にもベースノイズを一緒に録ってしまってます。それのが自然な響きでちょっとした自然の響き感とかっていうのも表せたりするので、わざとかぶる感じで録ったり、OFFで録ったりする事もありますけれど、かぶる感じで少しとったりしたものを実はドラマのシーンで足したりしています。
Q:それはシューティングの時に同時にという事でしょうか?
A:同時にです。時間無いので・・・(一同笑い)
今言ったようにかぶりのちょっとした響きがいいんで。
Q:そうすると、奥行や距離感をある程度調節しながらでしょうか?
A:あとでできたり、それがたして丁度良くなったり・・・。照明さん歩かないでねとか言いながら。頼みます!って感じで(一同笑い)一番困るのは、今、Hi-Visionのカメラがうるさくて、それが一番困っちゃうんですよね。でもそれがないとだめですから仕方が無いですけれど。
Q:Hi-Visionのカメラがうるさいって言うのは何がうるさいんでしょうか?
A:動作音です。ファイナルミックスの時にEQしちゃうとキーキーキーキー言ってくるんですよね。Zoomも結構ですね。Zoomのシーンってだいたい逼迫したシーンだから、シーンとしている時にアアアアアアと(動作音)なってしまう。
内村:このUmbrella Micですけれども、NHKのみんなでつくったスタイルなんですけれども、ラージタイプとミッドタイプというのがあります。こんなような状態ですね。(画像)あの、マイク間が前後が1200mm位、LRが1200mm位ですね。最初は、傘の柄を見ててこれにマイクをつけたら丁度良い感じじゃないのって言ってピンマイクを付け出して、録ったら良かったんですよ。それで本格的につくろうかって言うので、柄をつくって、傘屋さんに行って逆に、台風の時にバフってなるような逆に開いちゃう形で、できないですかねって言って、つくってもらって、これがラージだとさっき言ったように結構、1200mmありますからいい感じなんですよね。
Q:そういう時はノイズは出ないんですか?
A:出ないです。それはCR55潤滑剤のお陰ですよ。
Q:風の音は入らないのですか?
A:風防を使います。
Q:DPA 4060というのは無指向性ですよね。それをここにつけるんですか?
A:無指向がいいですね。
Q:その、間に仕切りを入れるとかっていうのは・・・。
A:もう少し広ければ逆に単一もいいのかなと思いますが。無指向の方が自然ですね、あと、風に強いですから無指向だと、圧倒的に吹かれに強いですから無指向で録っています。
内村:これはさっきのWMS-5、皆さんもご存知だと思いますけど、3つのピックアップで録って、MS方式を利用してサラウンドをつくりだしているというマイクです。これは万能じゃないと思いますが、お手軽にとれるという事と、こういうガンマイクのような形をしていますから、用途が高いですね。だからドリーショットと高速でドリーショットとか録ったんですけど、そういうのも録れちゃうんですね。車の通過音もそうですけど、相手の車の前から後ろを通過する感じとかも結構リアルに録れたりしていて、思いのほか録れてました。
内村:サウンドデザインのためのミーティングではどういうことについてやっているのかをお話したいと思います。今回の場合はドキュメンタリーのパートとドラマのパートがありますので各々のシーンについての話し合いは、
*音のサブリミナル効果について。映像と音が連結した時に何が起こるのか?
・違うシーンにいったときに、映像と音を連結した片方を出すことによって、もう片方を理解できる。
・音と映像と一緒になって一回どこかで感じさせておいたものが、違うシーンにいったときにその音を聞くとさっきの映像を思い出すことができるということです。
・その音を聞いたときになにかしらのその人が持っているものを引きずり出したりします。例えば、鈴虫みたいな音を聞いたら夏の夜なんだな、と思ったりすることです。
↓
・しかし、その音がインターナショナルな時には逆に注意が必要で日本人はそう思うかもしれないけど、外国人はわかんないかもしれないことも考えとかないといけません。
・音と映像の連結作用で、心理的な効果を作るということがとても重要だと思っています。そういうものを作ってあげることが重要なことだと思っています。
*作曲家の重要性
・音楽を作ってそこに当てはめるのではなく、そのシーンのための楽曲を書いてもらうということが重要です。当然そこには自分たちからこういう台詞やサウンドエフェクトが当たりますよ、ということをお互いに話し合いをして作ってもらいます。そういうことを理解してもらえる作曲家を選ぶことも必要だと思います。
Q:サウンドデザインと作曲家が協力して、音楽を作ったりすることはありますか?
A:あります。そのためにスコアミーティングをしたりします。
内村:僕は必ずストーリーボードを書き直しています。自分で描いていくと何が必要なのか、何が必要でないのか、後、必要なものと連結するものですね。このシーンとこのシーンとこういう音が連結できるぞとか、こういう意味を持たせられるぞ、とか自分の押さえどころがはっきりしてくるので書いています。描いていると頭の中でやりたいことがわかってきます。
*ADRセッション
・今回はこの世じゃないものを演出してみました。今回の場合意図的なADRセッションが随所にあります。
・登場人物が幽霊の時はセンター抜きの4CHボイスにしてあります。
・登場人物が現実にある昔のシーンとして出てくる場合ではADRしていません。ハードセンターです。
Q:初めからADRをするということを前提に撮影にかかったのですか。
A:そうです。僕の心の中ではここはADRじゃないとこの話は成立しないなと思っていました。
Q:日本の役者さんはADRに慣れていないという感覚があるのですが、どうなのでしょうか。
A:この作品の方々は、上手でした。
*プラグインソフト VocALign・Elastic time
・この2つはほとんど音質を損ねることはないです。前にある波形にこちらからボイスをオーバーしたものとタイミングと音程を見てある程度合わせてくれます。
・Elastic timeは音質を変えることもなく、軽く、名前の通りゴムや粘土のように音を伸ばしたり、縮めたりすることができます。
* ADRの注意点
・ADRを聴く時は絶対にシングルモニターで聴くべきです。ファンタムセンターで聴くと2k(Hz)くらいがディップするからです。人間の頭(周り)は人によって違いますが、大体17cmくらいといわれていますが、Lから来る音とRから来る音に距離があるからです。これで音がずれますから必ずシングルモニターで音を聴くべきだと思います。
・ADRシートを作ったほうがいいです。とり忘れがあったら困るので、必ずシートを作ります。Protoolsでやっていくなら、そこに空のRECを作って記入します。
*ADRセッションの実際
・NHK802スタジオで録りました。
・ほとんどがM149 Tubeです。他にはU87や40を使ったりしました。
・今回の場合は耳元でボソって言われるような、この世の音ではない音にしたかったからです。
Q:4CHでいくぞと思っても、録りの時はシングルで聴いているのですか。
A:そうです。クアッドでいこうと思ったのは音質的に近い音が欲しかったからです。
*Foleyセッションについて
・FoleyスタジオCR300で衣擦れや和ロウソクなどの細かい音を録りました。
・マイクはオーディオテクニカのAT4040を使いました。
・U87も良いのですが、倍音の高いものを録るとチリチリいってしまいます。AT4040はオンオフの感じがとても出やすいです。それとMKE-2を使います。
Q:和ロウソクはどのマイクを使いましたか?
A:和ロウソクはAT4040を2本使います。
Q:距離を教えて下さい?
A:色々な音なので一定していません。色々な距離で録っています。
Q:一番近くてどのくらいですか?
A:一番近くて20cmくらいです。
・和ロウソクを揺らして録りますので、和ロウソクから3mくらい離れたところからうちわで扇ぎます。このくらい離れて扇ぐと、炎が消えた頃にボフっと来ます。
・あんまり近くだと人の物音が入ってしまいます。
・和ロウソクを揺れた音だけでは物足り無いので、ハーモナイザーでローエンドを足したり、ナチュラルのテープフランジャーを一瞬だけ入れたりします。他にも紙を破る時の音やアメリカのセブンイレブンのビニール袋のようなペラペラなビニール袋で燃えカスが消えていくような音を録ることができます。
・Foleyで録る場合はほとんどモノで録ります。でも、Foleyで録ったものを後でどう使うかわからないので、シングルモニターとステレオの両方でも聴いて雰囲気が違わないかどうか確認しています。
Q:先ほど和ロウソクはAT4040を2本で録っていると言っていましたが、それはモノなのですか?
A:いいえ。和ロウソクはステレオです。でも使っているのは一本だったりします。衣擦れやフットステップなどは一本で録っています。複数使っていますが収録はモノです。
・Foleyも録り忘れがあるかもしれないので、セッションシートを音を録る前に作っておきます。
*スコアリングについて
・レコーディングは和楽器、ストリングス、声なんかを録りました。音楽スタジオCR-506で録っています。
・全部ProToolsの中で仕上げました。
・レコーディングはパッド系、打ち込み系のものを録って、T.DしてProToolsとFAIRLIGHT MFXでとりました。
・MFXに録る理由はProToolsでトラックが足りなくなることを想定して、どちらかに逃げれるようにするためです。
*プリミックス at Skip City
・コンソールはAvant Plus、プレイヤーはProToolsです。
・トラッキングシートを作ることは非常に重要です。色々なメモを取ったりできますし、全体像が見えますのでのとても有効なことだと思っています。
・勿体無いかもしれないですが6トラックのユニット構成で録っていった方が良いです。サラウンドのトラックを作っていないと、移動する時に面倒なことになるので6・6・6で作っておいたほうが良いです。後で、移動できます。
【補足】
染谷:ProTools上で5.1chのトラックを作ると、例えばセンターのレベルだけを上げたいということはできません。ですから、バラで行うことによってここだけレベルを上げたいという時にレベルを上げることができます。もうひとつはコンソール上の問題なんですけど、コンソールに上げたときも、例えばセンターだけを違う定位にしたいという時にすぐ変更できます。そういったものがバラバラにできるというメリットがあります。こうした方が自由度が高く、後で色々と修正が利きます。ただし素材のトラック数が増えるというデメリットもありますが。
Q:素材音ごとに6トラックにするということはただコピーすることなんでしょうか?
A:いえ、そうではなく、単純にトラックをひとつずつ単独にしたものにしておくということです。ProToolsって5.1chのトラックを作ると、素材が全部一つのトラックとしてエディットされます。それだと特定の音だけ変更したいと行ってもまとめてでしかコントロールできませんので、もっと細かくやるためにこうした工夫が必要です。
*ファイナルMIX は、New HD-520 Studio
内村:音質的には非常に誇れるものをつくることができました。スタジオをつくり、そこでファイナルミックスが出来たのはすごく贅沢な話ですね。
*Soundtrack
・Sound Effect
・Hard(Cut) Effect=フォーリーでつくる音以外の画面に映る音
・Foley Effect=衣擦れ、フットステップなど
・Background Effect=ベースノイズ、空調音など
・Electric Effect=電子的なものを使ったSE ex.)ラジオのチューニングザップ音
・Production Elements=プロダクションサウンドとして録ってきた音
・Sounddesign Effect=サウンドデザイナーが心理的要素や特殊な表現のために使う音
・Dialogue、Monologue、Narration、Voice、Voice Over、
・Score(=Music)
素材は756trackからプリミックスで112trackへ。
Q:地上波用のダイナミックレンジの調整方法を教えて下さい?
A:ピークが+15dB以上にいかないようにDMEでコントロールしました。
Q:プリミックスではフルビットまで使っていますか?
A:ほぼ近くまで使っています。
Q:使用メーターはピークメーターのみですか?
A:気にするのはピークメーターで、VUメーターはほとんど見ていません。今は特に地上波のアナログラインで末端の局に行ったときに変な音にならないように気を付けています。
Q: 海外版のダイアローグなどは?
A: 実は同じ役者さんで日本語版と英語版があります。
Q:プロジェクトのデータ管理は?
A:私が個人でやっていますが、きちんとやらないといけないと思っています。
Q:NHKでのデータ管理方法は?
A:バックアップルームでDVD-Rに焼かれます。作業HDDなどは私がきちっと梱包してディレクターに渡しています。
Q:HDDは制作費に含まれますか?
A:含まれます。作業HDDは2式用意しています。
Q:DVD-Rの内容管理はどのような方法でしょうか?
A:ファイルメモがあるのでそちらに記入して、またバックアップディスクは同じものが2枚以上にならないような仕組みがあります。
沢口:内村さん長時間にわたるデモとお話をどうもありがとうございました。様々な国やスタッフと共同作業をするうえでの貴重な経験は、まさにみなさんにとってもいきた教材といえます。また「異界百物語」の制作で紹介してくれた実に丁寧で情熱あふれるアプローチは、皆さんにも大いに参考になったと思います。「サービス残業はやるな!」といってましたが内実大変な自助努力があったであろうことが容易に想像できる講演でした。(了)
[関連リンク]
異界百物語
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