Mick Sawaguchi 沢口音楽工房
Fellow M. AES/ips
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰
はじめに
聴覚障害をテーマにした近作では、2021年制作第94回アカデミー作品賞受賞の『コーダ』や本誌でも分析した2018年作品91回アカデミー音響効果賞ノミネート作品『A Quiet Place』などがあります。本作は、長期間の大音量と薬物に晒されたドラマー ルーベン・ストーンが突然難聴になり彼が感じるサウンドをいかに作り上げるかに多大な貢献を行ったフランスのサウンド・デザイナー、音楽家Nicolas Beckerのサウンド・デザインに注力して分析しました。彼がフランスの国立音響研究所であるIRCAMのツールや知見を駆使した2時間の作品です。
1 制作スタッフ
Director: Darius Marder
Sound Design: Nicolas Becker
Final Mix: Jaime Baksht . Carlos Cortes Navarrete
at Splendor Omnia Mexico
Music: Nicolas Becker . Abraham Marder
Foley Artist: Heikki Kossi
Production Sound: Phillip Bladh
Sound Recordist: Yanna Soentjens . Nicolas Becker
2 ストーリーと主要登場人物
パンクドラマーのルーベン・ストーンは、恋人のルーと一緒にトレーラー・ハウスに住みながらバンドを組みアメリカ各地で活動する日々を過ごしていました。ある日ライブの準備中にルーベンは耳が聞こえにくくなっていることに気がつき薬局で紹介された専門医を受診します。結果は、両耳の聴力が20-30%しか聞こえないほど低下しており、いつ聴力を失ってもおかしくない状態で最悪何百万ドルとするインプラント手術しかないと言われます。絶望のあまり自暴自棄になるルーベンを、ルー自らは、パリに住む父の元へ行き、ルーベンを一切の外界からの交流を遮断しメンバー同士で生活する聴覚障害者コミュニティを運営しているジョーのもとを訪ねます。
ルーベンは、人々との交流を通して、徐々に生きる希望を見出していくものの、いつまでもそこに留まり続けることに疑問を覚え機材やトレーラー・ハウスを処分しインプラント手術の費用を捻出、手術を行います。
おかげで僅かながら聴力が回復したルーベンは、彼のもとを去った恋人ルーをパリに訪ねますがそこで父と暮らすルーは、すでに彼とは別の世界を持ったことに気づきます。翌日静かに家を離れたルーは、パリの街中のベンチに一人腰をおろし異様に聞こえる現実世界を眺めていますが、教会の鐘の歪んだ音を聞き突然インプラントを外します。そしてそこにある静寂に自らの存在を見出していきます。
3 起承転結毎の特徴的なサウンド・デザインとスペクトル分布
3− 1起00H00’00”-26’44’
●冒頭のLIVE会場シーンです。大音量で演奏しているルーベンとルー、会場の雰囲気を典型的なアンビエンス ・デザインであらわしています。ハード・センターにルーのボーカル・ドラムス、L-RでGtと観客の拍手,そしてLs-Rsで会場の反響です。本作で一番ダイナミックスが大きいシーンと言えこの後の展開と大きなコントラストを作っています。
●ルーベンが、初めて突然難聴に襲われるシーンです。コンサートの準備中のスタッフの声が低域のうねりとしてサラウンドで表され、もう一つは、実際のLiveでドラムを演奏中に聞こえなくなるシーンです。
ルーベンの主観ショットとしての難聴デザインは、トータル23シーンありますが、基本のデザインは、同一でハードセンターが少し大きめのレベルですが、全体サラウンドでシーンごとに対象として聞こえている音が様々に加工された低域成分とLFEで表現されていきます。各スペクトル分布を見ても分かるようにほとんど低域成分だけです。
私が主観ショットのデザインとして印象的な作品は、2009年第82回アカデミー・音響効果賞受賞作のThe Hurt LockerでJamesが爆弾処理に向かうため防護服を着て移動する彼の主観ショットP.O.Vです。画面全面がヘルメットから見たショットになり呼吸音がサラウンド全面で展開、同時に微かな防護服内のエアコンが広がるというデザインです。デザインは、スエーデンのPaul . Ottossonです。
●翌日トレーラー・ハウス内でのルーベン。本当に聞こえなくなったのかを自分の声や顎や咳、顔の筋を動かして確かめます。
素材録音には、様々な小型マイクやコンタクトマイクを使用したとNicolasが述べていますが、詳細は後の素材録音の章で紹介します。
●薬局で紹介された耳鼻科で聴覚検査をうけるルーベン。医者の声も本人の声もテストで再生されるサンプル音も全てはっきり聞こえません。
●再びLive会場です。ドラム・ソロの途中で限界を感じて外へ飛び出したルーベンを心配したルーが「どうしたの!」と駆け寄るシーンです。ルーの声が、低域加工されてサラウンドで展開しています。
3−2承 26’44’-42’00”
ここは、ルーベンがDeaf グループ・コミニュティへ参加するストーリ中心の展開で特に特徴的なデザインは、ありません。
3−3転 42’00’-1H34’40”
●コミュニティに参画したルーベンがグループで夕食をとるシーンです。手話とテーブルをたたいて会話することがLFEを中心としたデザインで表されています。
●子供たちのクラスでタップ・ダンスを鑑賞しています。タップの足音がLFEで子供たちに感じられることを示しています。
一人退屈した子と教室を出てスチール製の滑り台に腰かけたルーベンは、子供とスチールの滑り台を振動させて会話するシーンです。振動-骨伝道の有益さを表した物語として本作の名場面です。
●子供たちとピアノ演奏を手で感じているシーンでこれも振動を感じるということを大変印象深く表した名場面だと思います。
3-4結1H34’40”-2H00’00”
●少し回復したルーベンは、恋人ルーが父といるパリの家を訪問し2人での再起を期待します。通りで聞こえる雑踏・自転車・車・子供・人々の音が歪んだ雑音としてルーベンの耳に飛び込んでくるデザインです。
●ルーの父の家でPartyが開かれます。賑やかな人々の会話、そして父と歌うルーの演奏がルーベンの耳にどう聞こえているか?
●2人での再出発を断念し、静かに家を抜け出したルーベンが通りのベンチで街の音を聞いています。突然鳴り響く教会の金は、ルーベンの耳には巨大な歪としか聞こえません。彼は、インプラントを頭から外し、そこにある静寂に大きな安心を見い出す本作のメインテーマが無音でデザインされた名場面です。
4 Nicolas Beckerのサウンド制作
彼は、経歴を見ると大変多才で仕事の範囲も多岐にわたっています。最初Foley artisとしてキャリアをスタートしGravity. Contact .エキスマキナなどのFoley 特殊効果音を担当その後サウンド・デザイナーそしてサウンド・スーパバイザーと領域を拡大してきました。サウンド制作だけにとどまらず。自己のバンドを中心に作曲・音楽制作・ソフト開発も手掛けており活動は、実に広範囲に渡っています。本作では音楽も担当しメタル楽器クリスタル・バシェの演奏も行なっています。私の資料の中に2013年の彼のFoleyに対する興味ある記事がありましたので参考に抄訳して紹介します。このサイトは、2023年現在閉鎖されていました。
参考資料 抄訳
Foley Adventures by Nicolas Becker
By Paul Mc 2013-10-29 on www.audiopronet.com
リスクを冒さずに面白いものはできない。
ニコラ・ベッカーはフランスを代表するフォーリー・アーティストであり、何百もの一流映画でクレジットされているサウンド・デザイナーである。バットマン・ビギンズ』、『グラビティ』、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、『インポッシブル』、『ヘルボーイII/ゴールデン・アーミー』、『サイレント・ヒル』、ロマン・ポランスキーとの一連のコラボレーションは、豊富な経歴のなかでも特に目を引く。ベッカーは現在、フォーリーやサウンドデザインにおける芸術性で注目され多くのprojectを担当している。
ベッカーは、15歳のとき、映像編集者でもある叔母のフォーリー・セッションを見て、フォーリー・アーティストになりたいと思ったという。国際的なprojectのアシスタントからスタートした彼は、この仕事を通じて多くの監督と知り合い、長編映画のフォーリーを手がけるようになった。
ベッカーは、彼のキャリアの中で最も重要な2つの転機を語っている。この作品La Haine, は1995年のカンヌ国際映画祭でマチュー・カソヴィッツ監督に最優秀監督賞をもたらし、1996年にはフランスのセザール賞で最優秀音響賞を受賞した。もうひとつは、高い評価を得ているロマン・ポランスキー監督との仕事である。『第九の門(フォーリー・アーティスト、1999年)に始まり、『戦場のピアニスト』(2002年)、『オリバー・ツイスト』(2005年)、『ゴースト』(2010年)、そしてポランスキー監督の最新作『ヴィーナス・イン・ファー』(2013年): 』(2013年)。
ベッカーの名声を確固たるものにし、ハイエンドな仕事をもたらしたのは、初期のポランスキー作品だった: 「ポランスキーは素晴らしいテクニシャンとして知られています。」
ニコラ・ベッカーを知ったのは、音響コンサルタントのホワイトマーク・リミテッドのデビッド・ベル氏の紹介だった。同社は最近、モスクワのシネラボ・サウンドミックス・オーディオ・ポストプロダクション施設内にある「フォーリースタジオ」の仕上げを行った。2人は、初期の設計段階で、現代のフォーリー・アーティストとフォーリー・エディター/サウンド・デザイナーの実用的かつ創造的な要件を探った。このミーティングでのベルのお気に入りの逸話のひとつに、この分野の重要性を説明するのに役立つフォーリーの例がある。つまり、ベッカーが階段を昇る足音を演じなければならなかったが、その階段を昇る途中で、キャラクターが感情的な啓示を受け、考えを改め、新たな目的を持って昇り続けなければならなかったという例だ。
フォーリーアーティスト」の「アーティストセンス」を疑ったことがあるなら、少し考えてみてほしい。CineLabフォーリースタジオを作るにあたり、ホワイト・マークは、ベッカーがクリエイティブなフォーリーに欠かせないと考える要素を多く取り入れた。これには、パフォーマンスにとって便利でありながら柔軟性を持った環境を作り出すためのさまざまな音響処理が含まれる。
HAL:映画音響協同組合
ニコラ・ベッカーは、HALという映画音響会社を設立した。この会社には、プロダクション・サウンド・レコーディング、サウンド・デザイン、フォーリー・ミキシングなど、制作のあらゆる段階を専門とする映画音響業界のリーダーたちが集まっている。これは、互いに親しみ、補完し合えるプロフェッショナルから、プロジェクトのチームを作ることができるというものだ。HALはプラグイン開発にも携わっており、現在はIRCAMと共同で "新世代の音声処理ツール "を構築している。HALのウェブサイトはこちら:www.hal-audio.com
Working in Space-フォーリーをライブ空間で!
コンボリューション・リバーブは素晴らしいツールだが、起こっていることの完全で完全なモデルではない"
ディレクターと一緒に仕事をし、彼が何を望んでいるのかを理解しアコースティックを最大限に生かすために、ベッカーは複数のマイクを使う。多くのフォーリーレコーディストが尻込みするようなことだが、マイクの数が多ければ多いほど作業が増え、時間もかかる。そしてお金もかかる。しかし、ベッカーは、フォーリーをライブでリアルタイムにミキシングすることで、時間と労力を節約し、より良い結果を得ていると言う。
「私は部屋に4、5本のマイクを置き、DPA 4041 [ラージ・ダイアフラム・オムニ]を "エアー "マイクとして使い、AKG 414をごく近くに置いてプレゼンスとディテールをとらえ、トランジェントを避けるためにリボンマイクも使用します。
「このセットアップでは、Foley録音者が非常に重要です。彼は映像を見ながら、リアルタイムでマイクをサミングしてダイナミックなものを再現する。すべてモノラルですが、マイクは5、6本あります。被写体が近づいてきたら、バランスをとって "エアー "マイクを減らすなど。
「このテクニックを使えば、作業の90パーセントは完了しあとは、微調整のために正確な同期を取るだけです」。
ベッカー氏は、フォーリーは、状況のダイナミクスをpost productionで再現しなければならない場合に難しいことがほとんどであり、そのため、複数のソースからのダイナミック.モノフォーリー素材をミックスすることで、作業の多くを節約することができると主張する。彼はまた、可能な限り自然な環境内で録音を行います。
彼は、このアプローチを、非常に短い時間で完成された素晴らしいロックやジャズのアルバムに例えている。レコーディングとバランス調整は、フォーリーそのものと同じくらいクリエイティブなプロセスの一部であり、両者が調和して機能するとき、魔法が起こるのだ。
とはいえこのロケ・フォーリー・アプローチには現実的な限界がある。ベッカーは、次のように認めている。
限られた数の一等地があり、それぞれが興味深い音響特性を持つ現場を探さなくてはなりません。また、このような "パフォーマンス "を行う前に、「コンセプトについてよく考えてみてください」とベッカーは言う。「映画について、それが何を意味するのか、何を求めているのか。監督とよく話し合い、 彼が何を望んでいるか。そして、そのプロジェクトにとって意味のあるセットアップを決めるのです。
「確かにリスクはあるが、それはコントロールされたリスクだ。」
ベッカーは、このリスク要因こそが、映画製作における予算と品質という相反する2つの要因に対する最良の解決策だと考えている。このアプローチを取り入れることで、より安く、よりクリエイティブにやりがいがあるはずだという主張だ: スタジオに戻ってする仕事はずっと少なくなるはずで、
"リスクを取らずに面白いものはできない"が彼の信条です。
「私がレコーディングを始め、どのようにレコーディングするかを考えた方法は、クラシック音楽をレコーディングする方法に似ている。アビーロードとかエア・スタジオとかね。
また、このアプローチはフランスの映画や映像に対する "自然主義的 "なアプローチに近いと指摘する:
「私の音の文化は、とても自然主義的な音の文化なんだ。
「イギリスには大きなスタジオがない。建物の構造上、大きな部屋を作ることができないからだ。
「ある意味、彼らはロックンロール・ミュージックを録音するようなフォーリーのやり方を生み出し、発明したのです。ロックンロール・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックを録音するとき、それはアコースティックなものとは違う......何か別のものを作り出すんだ。ディストーション、エフェクト、EQ、コンプレッションなど。多くのクローズマイク録音を使い、フォーリー・エディターが長い時間をかけてすべてを再構築し、フレーバーを与える。
現実を再現するのではなく、映画の世界という新しい世界を作り芸術的にも面白いのがArt of Foleyなのです。
芸術優先
テレビ番組のようにお金がなくて何でもやらなければならず、クオリティが落ちるようなことはない」。
ベッカーには経験というアドバンテージもある。「テクニックはある。私は20年間フォーリーをやってきたので、今は技術的な練習は必要ないと言えるし、問題はもはや技術的なものではありません。監督とのコラボレーションの中で、より芸術的な、あるいは心理的な挑戦ができるようになった。
ベッカーにとって、必ずしも知識が十分でない人にフォーリーや音響効果について話すだけでも大変なことがある。人々は絵、音楽、台詞についての有用な知識を持っている。この3つについて話すための語彙はたくさんある。でも『音』について話すとなると...。人々は『ああ、音か...。何のこと?
「とても特殊な仕事なんだ。雰囲気について、靴の質感について、人々にどう動いてほしいかについて、人々と話さなければならない。編集で連続性を出したいのか、カットを補強したいのか......。人々があまり考えないような細かいことがたくさんある。
一方、ベッカーは、幸運にも最高の仕事をいくつも得ることができた者の立場から語っている。
選ばれた分野 - このような創造的な見通しが求められる仕事。基本的な効率性、ロジスティックス、そして性急さが要求され、創造的な思索の余地がほとんどない仕事は他にもたくさんある。"もちろん、私も最初はそのようなプロジェクトに携わっていた......。長編映画を1本撮るのに3日。しかし、その後、仕事の質のレベルが上がったとき、それに戻るのはとても難しい......。とても難しいんだ。
「お金のない小さな映画で、最初のテイクでうまく撮らなければならないとき、面白いことがある。お金がない小さな映画でも、何か意味がある...。テレビ番組のように、お金がなくて何でもやらなければならず、クオリティが落ちるようなことはない。映画なんだ。この違いがわかるかい?
創作へのこだわり
今、フォーリーをやっているときは、ディレクターに一度でも会えれば幸運なんだ」。ベッカーはフォーリーアーティストでも、フォーリーレコーディストでも、サウンドデザイナーでもない。サウンドデザイン、サウンド監修、エフェクトエディターなど、彼の仕事は多岐にわたる。インタビューの中で、おそらくこの重点のシフトは、進化した野心というよりも、進化した創造的な中心と関係があることが明らかになった。
会話の中で、ベッカーのフォーリーの初期の経験は、監督や少なくともプロジェクトのシニア・クリエイティブとの直接的な共同作業であったことがわかった: 「フォーリーを始めた頃は......フォーリースタジオで、ディレクターと1週間か2週間一緒に過ごしたものです。今はフォーリーをやっていると、ディレクターに一度でも会えれば満足です」。
ベッカーは、フォーリーが "クリエイティブ性"からどんどん離れていくのを目の当たりにしても、自分の役割を拡大することで、その中核とのつながりを保ち続けた。しかし、それは決して意図的な戦略ではなく、むしろ自然な進化であった。
プロセスと意味
あなたがやっていることがアイデアを生み出すのだから、それほど危険ではない。あなたがやっていることは、何かを意味する......」。
ベッカーがアート・インスタレーションの世界に関わることが多くなったのも、おそらく同じ創造的要請からだろう。この5年間、彼は世界有数のコンセプチュアル・アーティストたちとコラボレーションしてきた。彼はこれらのプロジェクトを、商業モデルとは対照的な "コンセプトカー "を作るようなものだと考えている。彼はまた、結果とプロセスの両方を重視するアートの考え方が、彼自身の考え方と特に相性がいいと感じている。
映画の意味と録音方法には多くのつながりがある。リスキーに見えても、あなたがやっていることがアイデアを生み出すのだから、それほどリスキーではない。あなたがやっていることには意味がある。
人々はそれを求めて私を呼ぶ。そのアイデアを気に入ってくれる人もいる。最近、あるディレクターが『あなたはクリエイティブで、リスクを冒す』というアイデアを気に入ったのですが、その時は彼にとってはリスクが大きすぎました......」。ただの空想ではだめでやるしかないんだ」。
本作のサウンドのヒントになったのは、2013 年Gravityでの宇宙服内のサウンドを作っているときや聴覚障害の方々からの調査で振動が直接脳内聴覚を刺激して音として感じること、特に低域振動の重要性を学んだことだと述べています。
ここから本作のサウンドの方向性が固まり、実現のために今回多様なコンタクト・マイクや振動ピックアップ、水中マイクなどを駆使し、それらにIRCAMが用いている音源分離ソフトウエアーでノイズ成分・立ちあがり成分・高調波成分と3要素に分離したのち再合成したと述べています。ロケ現場では常時2−3種類の異なるマイキングシステムを同期させて微少な音からセリフまでを収録しています。
ルーベンがトレーラー・ハウスで異常に気付いて自分の顔や、口、顎・筋などを動かすサウンドには、スロバキア製の高感度コンタクトマイク-ゲオフォンを使ったそうです。
4-2自然なサラウンド・アンビエンス
Deafコミュニティで森・草原・朝の林といった自然のカットが登場します。これらのアンビエンス は、大変自然でこれらも彼が、フィールド・サラウンド録音している素材を使っています。写真を見る限りメインマイクロフォンは、Schoepsのようです。
5 ME制作
彼は、ME制作も担当しています。監督のDarius Marderから音楽についても相談を受けたときに現代音楽楽器であるクリスタル・Baschetというガラス共鳴キーボードに拡声器がついた楽器を提案しました。キーボード部分は、棒でできており水を指につけて発音させるのだそうです。
世界中の珍しいサウンドをスコアリングに積極的に取り入れているHans Zimmerも2014年のSF映画Interstellarで使用しています。
終わりに
骨伝道と聴覚という関係で私が思い起こしたのは、パイオニアが永年社会活動として取り組んでいます「身体で聴こう音楽会」の活動です。発端は、創業者松本氏が考案したボディ・ソニックで、第1号が誕生(1980年)した頃、当時会長だった松本 望が、この骨伝導を利用すれば聴覚障害の方も、“音楽やリズムを楽しめるのではないか”と考え、聴覚障害者団体等の協力のもと研究を行い参加者の喜ぶ姿に感動した社員が「ぜひ企業のボランティア活動に」と提案し第1回『身体で聴こう音楽会』が1992年に開催され現在まで266回開催されています。
https://jpn.pioneer/ja/corp/sustainability/karadadekikou/about/
///// 分析!アカデミー Best Sound Editing受賞作品 /////
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