February 18, 2009

第57回サラウンド塾 学生によるサラウンド作品を聴く 亀川徹、東京藝術大学音楽環境創造科のみなさん

By. Mick Sawaguchi
日時:2009年2月18日 芸大千住キャンパス
テーマ:学生によるサラウンド作品を聴く
講師:亀川徹(東京芸術大学 音楽環境創造科 准教授)、 東京藝術大学音楽環境創造科のみなさん

沢口:2009年2月の寺子屋では芸大の学生が制作した音楽やドラマなどのサラウンド作品を聞いて頂いて、業界人の方も良い意味での刺激を持って頂きたいと企画しました。逆に学生の人たちには、こうしたプロの方々との輪が広がることで良いビジネスチャンスを作っていただけると嬉しいです。それでは、本日の案内役、亀川先生に後は、お願いします。

亀川:皆さん、今日は寒い中千住キャンパスへおいで頂きありがとうございます。ここで寺子屋を開催するのは2回目で、前回は3階の録音スタジオでサラウンドレコーディングの実践編をやらせて頂きました。今日は沢口さんからお話を頂きまして、2008年の12月にアートパスという学生の日頃の活動を発表する場の中で、学生たちが取り組んだサラウンドの作品のいくつかをみなさんにご紹介したいと思います。
本日は、2つに分けてやらせて頂きます。まず前半は、去年の12月20日、21日にあったアートパスの中の20日に芸大のスタジオAで行ったイベントで冨田勲さんのサラウンドプロジェクトからの作品再生です。アートパスでは、100人くらいのお客さんに来て頂きましてサラウンドの作品を聞い頂きました。これは冨田勲さんが、3ヶ月という短い間でしたが特別招聘教授という大学のシステムを活用し9月から12月のアートパスの間に数回このキャンパスに来て頂きまして、主に大学院の学生を中心にご指導頂きました。まず作品としてどういったことをするか事前に冨田勲さんと学生たちで色々話しまして、千住の人たちにサラウンドを聞いてどういうものなのか知っていただこうというコンセプトをメインに制作しました。加えて、ただサラウンドというだけではなく、物語を題材とした音楽というコンセプトで各学生たちに自由に物語を選んでもらいイメージをし、自分たちの描いたものが伝わるようなものにしようと作りました。あまり長いと聞いていただけませんので5分程度を目安に各学生で作りました。アートパスでは全部で9曲聞いて頂きましたが、今回は時間の関係でその中から4曲聴いていただきたいと思います。今日は制作を担当した学生も来ているのでコンセプトなどを招介してもらいながら進めていきたいと思います。

以下に冨田さんが,アートパス冨田プロジェクトに寄せたサラウンドへの思いを抜粋で紹介します。

サラウンドプロジェクトに寄せて
冨田 勲
(本学特別招聘教授)

私は「サラウンド」は、オーディオで再生される音場の中で、一番我々が日常生活をしながら聞いている自然音に近い音場であると考えます。街を歩いていても、駅のプラットホームにいても、海岸にいても、山で雷に出会った時も、それはすべてサラウンド音です。そのサラウンドの音を自然音ならず、音楽に置き換えたらどんなにすごいだろうと思って、1970年代初頭にMOOGシンセサイザーに出会った頃から試行錯誤で音楽のサラウンド作りにこだわって来ました。ちょうどアナログテープレコーダーの16trや24trが出始めた頃です。折りしもその頃レコード会社も「CD-4」「SQ」などの方式で、サラウンド(当時は立体音響と呼んでいました)に力を入れ始めました。
私はある企業の音響技術研究所のご協力を得ることができ、好きな時にいつでも行けば、サラウンドの作業や自作を試聴のできる部屋を設けてくださいました。ところが立体音響が全体的に技術指向に片寄りすぎ、観客も自然体で聞くことができなかったのでしょう。なんとなく一般になじまないで10年足らずで方式そのものが崩壊してしまいました。私はこの時の無念さは今も忘れることができません。要するに一般の人を満足するだけの作品が出なかったのです。
あれから30年が経ちました。録音やサラウンド制作にかかわる機器も格段に進歩をして価格も安く、使いやすくなりました。いま皆さんが目指しているサラウンドは「自分流」でいいのです。すばらしい作品ができることを期待しています。しかしながら絶対に間違ってはいけないのは、リスナー無視の状態です。自分の世界にのみこだわっているときに、外界とのフィードバックは得られず、しゃにむに自分だけの墓穴を掘ってしまうことです。今回のアートパスは一般の人たちも聴くことができるので、皆さんのアンケートにより、更に自分を磨くことができるでしょう。


それから後半は、サラウンドのオーディオドラマ「森の中のプール」を聴いていただきます。
沢口さんは、ここ千住キャンパスで週1回サウンドデザインのクラスを持っていますが、その夏休みの特別集中ワークショップという形で1週間オーディオドラマを作るプロジェクトをやって頂きました。その作品を聞いて頂きたいと思います。これは同じ台本を使ってA班B班2つに分かれて行いました。1部ではA班の作品を聞いて頂き2部ではB班の制作を聞いて頂きたいと思います。

それでは前半の冨田勲さんのプロジェクトを聞いて頂きたいと思います。まず1曲目ですがプログラム1番にあります「銀河鉄道の夜」という作品です。この作品を作りました砂守くんから制作意図などを説明してもらいます。

砂守:音楽音響創造分野修士1年の砂守です。よろしくお願いします。今回は1つの物語を選ぶということで僕は「銀河鉄道の夜」を選びました。5分前後で作るには物語全部を作るのは無理なので物語が終わった後に残された主人公のジョバンニが友を失った心象風景を描きたいと思い作りました。僕自身の声による多重録音を主に使っています。

銀河鉄道の夜
砂守 岳央
音楽文化学専攻 音楽音響創造研究分野 修士一年
題材: 銀河鉄道の夜(宮沢 賢治)
演奏: 砂守 岳央 (ヴォーカル)
作曲・録音・ミキシング: 砂守 岳央

ジョバンニと友人カムパネルラは、銀河鉄道に乗ります。その美しく、どこか悲しい旅の終わり、カムパネルラはただ一言の別れの言葉もなく姿を消します。そして目覚めたジョバンニは、カムパネルラの死を知ります。まとめてしまえば、たったそれだけのお話。しかし、それがあまりにも心に響くのは、そこに描かれるのが妹トシを失った宮沢賢治自身だからです。それは同時に、いつか必ず愛しい人を失う、我々自身でもあります。残されたジョバンニの中で、いつまでも、銀河鉄道の音が鳴り響きます。

がたん。ごとん。それは、僕の中にも。
それは、あなたの中にも
がたん。ごとん。 
以下に制作機材を紹介します。
使用マイク:Audio Technica AT4040 Shure SM-58 ボーカル用
DAW:スタインバーグ Cubase SX
Audio IF:M-Audio Fast track Ultra8R
Mic pre:インターフェース内蔵
ボーカル録音:自宅仮設ブース
ミキシング:芸大千住キャンパス スタジオ

<「銀河鉄道の夜」視聴>

亀川:ありがとうございました。では続いて「マクベス」という作品です。これを制作した東さんにこの作品のアプローチなどを話してもらいます、お願いします。

東:音楽音響創造分野 修士1年の東です。私は冨田先生のプロジェクトで題材を作るうえで、別に卒業制作でマクベスを題材に衣装を作るという課題があり、それに音楽をつけたいという要望があったのでそちらと合わせて作品を作りました。ここでは、自分のイメージと衣装を作った方のイメージを統合して曲を作るという感じになりました。

マクベス
東 英絵
音楽文化学専攻 音楽音響創造研究分野 修士一年
題材: マクベス(シェイクスピア)
演奏: 瀧村 依里、上敷領 藍子(ヴァイオリン)、原 裕子(ヴィオラ)、木下 通子(チェロ)、鶴田 洋子(フルート)
録音: 佐藤 えり沙
作曲・ミキシング: 東 英絵

「マクベス」はシェイクスピア(William Shakespeare,1564-1616)の四大悲劇の一つである。主人公マクベス(スコットランド軍将軍)は、荒野で出会った三人の魔女に「王になる」と予言される。さらに夫人にそそのかされ、王を殺害して自らが王となる。その後王となっても後ろめたさからか自分が命を奪った者たちの幻を見るようになるが、それでも己の保身のために惨殺を繰り返す。そして、結局最後には前王の息子を慕う者達の前に殺害され自らも命を落とす。マクベスの死後、前王の息子が王となり再び平和な日々が訪れる。
本作はこの戯曲をもとにした衣装を使ったインスタレーション作品のための音楽でもあります。「マクベス」は様々な解釈をされてきましたが、このインスタレーション作品においては、主に「秩序の崩壊とその復活」をテーマに挙げています。その解釈の通り、音でも秩序の崩壊と復活、または生と死、といった二極性をテーマにしました。

以下にレコーディングでのマイク配置と使用機材を紹介します。レコーディングは音環3年の佐藤えりささんが担当です。

亀川:はい、では聞いてみましょう。

<「マクベス」視聴>

Q:どういう場所で録られたのでしょうか。
A:この大学のスタジオで録りました。
亀川:ここの3階にありますちょっと広めのスタジオで160平米ほどあるところです。

Q:曲の楽器は同録でしょうか?
A:最初は同録で、その後それぞれそれを聞きながら個別に録音し直しました。
Q:弦楽四重奏とフルートとピアノが使われているんですよね。
A:はい、個別というのは弦楽四重奏とフルートは一緒に録ってピアノは別に録ったということです。

亀川:はい、ありがとうございました。では次の作品の「浄められた夜」を作ったニコルさんお願いします。

キム:はい、音楽音響創造分野 修士1年のキム ニコルを申します。この作品は「浄められた夜」という詩の内容を現実音を素材に使った電子音楽という形で表現してみました。プログラムに詩が載ってますのでそれを読みながら聞いて頂きたいと思います。

浄められた夜
キム ニコル
音楽文化学専攻 音楽音響創造研究分野 修士一年
題材: 浄夜(リヒャルト・デーメル)
朗読: Sebastian Loewe & Maria Volokhova
録音: 佐藤 えり沙、キム ニコル
協力: 東 英絵、佐藤 えり沙
作曲・ミキシング: キム ニコル

「浄夜」はシェーンベルク(Arnold Scheonberg, 1874-1951)の弦楽六重奏のための同じ題目の曲「浄夜(Verklärte Nacht Op. 4)」の基となった、ドイツ人のリヒャルト・デーメル(Richard Dehmel, 1863-1920) の詩です。この詩の中のロマンチックな夜の情景を電子音楽という形で表現してみました。私は、この詩の場面が実際に再現されたら聞こえると思われる音―枯れた葉っぱを踏む足音、夜の鳥たちの鳴き声(を真似した音)、ドイツ語での詩の朗読―を素材として使いました。現実では森の中での男女の会話に弦楽器などのBGMはもちろんありません。しかし、自分の罪を告白し、それを許すという恋人たちにとって、周りの自然の音や、相手と自分の言葉、そして音の無いはずの月の光でさえハーモニーになって音楽のように聞こえるのではないでしょうか。曲は詩の構成に従う五つのパーツで成っているので、詩に目を通しながら音楽を聞いて頂いても面白いかと思います。

<「浄められた夜」視聴>

亀川;次は「緑の瞳」と言う作品です。この作品は録音・ミキシング担当の高橋君と作曲担当の松岡さんの共同作品です。冨田先生も大変気に入った作品のひとつでした。では説明をお願いします。
高橋:音楽環境創造科3年の高橋享平と申します。
松岡:作曲科4年の松岡美弥子です。

高橋:今回発表した作品は僕が録音やミキシングなどのエンジニアリングを担当しておりまして、作曲を松岡さんにお願いして作りました。では先に作曲の松岡さんから作曲意図などの説明をお願いします。
松岡:この音楽は小説の内容を表現しようと思いまして、「森の中の雰囲気」というのと物語に出てくる「精霊」の2つの対比をサラウンドで1台のピアノの多重録音で表現しました。
高橋:エンジニアリングは物語の世界観をサラウンドでどう表現しようかな考えたところ、2台のピアノで弾ききれてしまう音数なのですが、それを各音バラしていきましてその和音を録り直してサラウンドスピーカーに配置して再構成しております。そのサラウンド感を感じて頂ければ良いなと思います。

緑の瞳
高橋 享平    松岡 美弥子
音楽環境創造科 三年   作曲科 四年
題材: 緑の瞳(ベッケル)
演奏: 西本 夏生(ピアノ)
作曲: 松岡 美弥子
録音・ミキシング: 高橋 享平

主人公・フェルナンドは狩りの最中に獲物を追いかけて、魔性の精が住むと言われる泉に足を踏み入れてしまい、以来、様子がおかしくなってしまう。不審に思った家来が理由を訪ねると「緑の瞳をした女と泉で出会い、彼女のことが忘れられない」と言う。家来は女は魔性の精であり、2度と泉に行ってはならないと忠告するが、彼は再び泉に行ってしまう。そして、女に誘われるがまま口づけを交わすと、泉に飲み込まれてしまうのだった…
物語中の、泉の精と禁断の泉にインスピレーションを得た作品です。自然と泉の精の調和した神秘的な世界観をピアノの音色のみで表現しました。メインとなるピアノは泉の精である女を表し、多重録音したピアノの音は聴衆を取り囲むように配置することで、森や泉の情景を生み出します。

<「緑の瞳」視聴>

Q:きれいな曲でしたがリバーブはどのような考え方で作ったのでしょうか。
A:森の空間を表現したかったので、自然界ですと当然音は四方八方から聞こえますし距離感もすべて違います。ということでリバーブはフレーズごとで深さをかえています。それは基本的に2種類用意しておりまして片方は2秒以上あるもの、もう一方はだいたい2秒くらいのもの2パターンを使用しています。精霊を表している方はハードセンターで短い方のリバーブを使いくっきりとさせています。それ以外のばらした森の雰囲気の方は長いリバーブの方に送っていまして、その送り量で遠近感を出しています。それから長いリバーブ成分にはコーラスをかけていまして、キラキラした感じにしています。

亀川:これで4曲すべてお聞頂きました。
サラウンドのこのような作品というのは世の中にたくさんあるのですが、実際に1から作るにあたって大学の環境でどういうことがことが出来るかということを考えて作ってほしいと思い学生たちと話をし細かなことはあまり言わずに作ってもらいました。その上で冨田勲さんにより具体的なアドバイスを頂きながらやっていきました。
この部屋はProTools HDなんですけれどもProTools LEを使用できるPRE-MIXルームも何室かあり、そこはサラウンドの小さなモニターを用意し、簡単なサラウンドバスを組んで聞けるような形にしました。(ProTools LEでサラウンド可能なプラグイン)MIX 5.1を導入。
なのでデータの持ち運びには苦労していたようです。また、モニター環境が違うと特にリバーブは分かりづらいので、最終的なミックスは統一してこの部屋で行いました。

後半は沢口さんにご指導して頂きましたオーディオドラマです。これは25分くらいのサラウンド作品です。制作を担当した中新田さんから説明お願いします。

中新田:オーディオドラマ制作ディレクターの中新田です。

今回聞いて頂く作品は、夏休みに集中して1週間のワークショップで制作したものを、アートパス用にリミックスし直したものです。各チーム5名くらいの小編成で制作をしました。あらすじは以下のようなストーリーです。

タイトル:森の中のプール
プロカメラマンを目指す牧田有三23歳。国際新人コンペでデビューするまでの道のりと撮影で出会った森の中の洋館、そこにある広大なプールと桜の巨木、館の女主えりとの不思議な交流。3ヶ所あるイメージシーンをサラウンドで表現
人物;牧田有三 駆け出しカメラマンアシスタント
YOSHI:横浜で写真スタジオ経営.中堅プロカメラマンで有三を応援40歳
えり:森の中の屋敷に住む女主.ピアノを弾く。38歳
そのほか:ラーメンや TVキャスター アシスタント(電話の声)えりの母
フィリピンからの女達。表彰式会場客など。
ではお聞きください。

<「森のプール」(チームB)の視聴>
(拍手)
亀川:はい、どうもありがとうございました。質問、意見があれば伺いたいと思います。

Q:森の中の音はどの様にして録ったんですか?
中新田:写真で説明したいと思いますが、4CHサラウンドロケを奥多摩で行いました。沢口さんからお借りした、Sanken CUW-180を前後に向けて、Edirol R-4を使って4トラックで収録しました。
ここからだいたい2時間半かかる東京のはしっこです。このように森の中で録りました。

1週間の制作の様子をご紹介します。制作のスケジュールはこのようなものです。
7月の頭にチームを結成し8月の初旬にはもう完成というスケジュールです。1週間の集中制作ワークショップという期間があって、その中でどんどん作業を行いました。その後12月にアートパスという学校外の方に公開する場所があったので、それに向けてもう一度リミックスし直しました。チーム5人ずつの構成です。

1日目は台本の読み合わせです。このスタジオでこの物語の基本となってるコンセプトを固める作業を行いました。

2日目はセリフの録音から入ります。セリフの録音は会話、モノローグ、電話の声、ガヤの4種類に分けて録りました。こちらは会話用のマイクで双指向性を使って役者同士が顔を合わせながら録音できるようにしました。モノローグ用のマイクは、会話との差をつけるためにステレオのマイキングになっています。電話の声用のマイクには、ダイナミックを使っています。ガヤ用のマイクは、IRT-X。4チャンネルで実際にこのマイクを人で囲んで臨場感が出るような効果を狙いました。セリフは台本の頭から録っていきました。

3日目は効果音の録音をしました。最初はライブラリーで探しましたが、ライブラリ-以外にも効果音に表情がほしい場合はスタジオでFOLEY録音を行いました。実際にカップラーメンを作ったり鹿の足音もスタジオの中で作りました。

4日目は音楽の録音を行いました。チームA・チームBでスタジオの時間を区切って録音を進めていきました。
  
最終日でFINALミックスの作業です。ミックスはここのスタジオと3階のスタジオでチーム毎に分かれて行いました。

5日目は各素材のPRE-MIXを行い
Q:Aチームの作品は聴いていませんが、素材は全部同じで音楽や効果音のつけ方がそれぞれ違うんでしょうか?
中新田:そうですね。台本でセリフは共通で使ってるんですけど、それぞれディレクターもミックスもチームが違えば考え方が違うので両方聴くと違いがよくわかります。

亀川:やはりチームでやるのでチームの個性がすごく出ています。

Q:音楽も効果音もつけ方もそれぞれ別々でしょうか?
中新田:そうですね。

Q:セリフだけ同じですか?
中新田:そうです。セリフは共通、効果音もいくつか共通、あとはそれぞれチームごとに音楽は別々の作曲家が作りました。
今回で集中ワークショップは、2回目なんですけれど前回音楽は沢口さんで用意し、今回は音楽も一から作ろうということで、作曲家も予め決めて制作しました。。

Q:セリフの定位で工夫したところや、迷ったところはありますか?
山田:Bチームのミキサー担当の山田です。Bチームのセリフは主に会話はハードセンターから、モノローグはステレオですが、一か所だけ、「エリさん僕に力を」のところだけは4チャンネルの効果を生かし、他はほとんど前だけのSPを使っています。

Q:制作した立場で100点満点で自己評価は何点でしょうか?
中新田:気持ちとしてはやりきった感じはあるんですけど、耳を澄ませばまだまだ直せるところがあるなっていう。満足したところとまだまだやれるなっていうか聞かせられるなっていう感じが自分的にはまだあったので、89点くらいでしょうか。

山田:ディレクターがどう思っているかはわかりませんが、ミキサーの立場から言えば60点位かなと。ディレクターが考えて表現したいという世界をどれくらい出せたかという点でいうと60点位かなと思います。もっと効果が効いてこうしたかったとか、ここはあーだった方がディレクターが喜んだだろうというのは思い残すところがあります。難しいですね。自分が制作者といわれると。エンジニアだったらもう少し点数いくのかもしれませんが。

Q:色々な空間での会話がありましたが、空間の表現はどのように考えましたか? 大きい部屋、小さい部屋、サラウンドですから、空間を表現しようと思えばできますよね? そのあたりの考え方を教えてください。
山田:最初のパーティー会場の挨拶部分はスタジオAの響きを生かして台詞をSP出しして加工しました。森の中や空想的な部分では空間の表現をエフェクトで工夫していますが暗室の部分ではもう少しやりたかったです。ハードセンターにプラス短めのディレイ、リバーブだけでなく暗室っぽさを出せたと思うので、そこは心残りの部分ではあります。

中新田:Aチームでは暗室っぽさを出そうということで効果音、セリフにリバーブを使いました。
確かに森の中で喋ってるセリフと部屋の中で喋ってるセリフは、全く同じ条件で録ったものをそのまま使っています。今のご指摘を頂いて、サラウンドならではの効果的な空間表現ができなかったと、思ったところです。ありがとうございます。
 
沢口:亀川さん、そして学生の皆さん,どうもありがとうございました。千住キャンパスは、大学の環境としてさまざまなサラウンドの制作や授業を行っている貴重な学部だと思います。こうした経験をさらに発展させてさまざまな場で発表していただきたいと思います。

後日NHKで音響デザインをしている佐藤あいさんからも、当日話しきれなかった部分を含めて丁寧なコメントを送ってもらいましたので、ぜひ参考にしてください。


「森の中のプール」に携わったみなさんへ
NHK音響デザイン 佐藤あい

2008年 サウンドデザイン集中ワークショップ制作作品 5.1chサラウンドドラマ「森の中のプール」Bチーム 
2009年2月18日(水)18:30〜 音響制作スタジオにて試聴

みなさん、こんにちは。
NHK音響デザインでドラマ系のサウンドデザインをやっております佐藤と申します。この度は、5.1chサラウンドドラマ「森の中のプール」を拝聴させて頂きましてありがとうございました。 私なりに、気がついたことや感想をまとめましたので、今後のご参考 になればと思います。簡単に自己紹介を致しますと、現在、私はNHKの音響デザインという部署でテレビドラマやオーディオドラマのサウンドデザイン(音響効果)を やっております。この仕事を始めて8年目になります。学生時代は国立音大の音楽デザイン学科というところでメディアアートの制作や現代音楽、音楽社会学など、おそらく皆さんが 勉強されている分野に近いことを勉強しておりました。
まず、25分という尺のオーディオドラマをサラウンドで完成させたと いうこと自体が非常に大変なことだったと思います。皆さんで素晴らしい取り組みをされたと思います。学生自身で、一人何役もの役割を果たし、あるときは楽しんで、またおそらく激しい議論も経て、25分を仕上げたのだろうと思うと、若い今しかできない貴重な経験をされたのだと思います。
台本検討、役を演じることから、セリフ収録、音楽録音、生音、音響効果とミックス(サウンドデザイン)までそれぞれについて、気づいたことや感想を述べたい所ですが、非常に膨 大な量になってしまうので、ここでは私の仕事の領域でもあります、音響効果とミックスについて重点的にお話ししたいと思います。
オーディオドラマというジャンルは、音をつくる人間にとって非常に魅 力的な分野でありながら、 その表現がとても難しく、一歩足を踏み入れると果てしなく深い世界へ と導かれていきます。音で魅せるという以前に、まず、聞き手にとって分かりやすいように 「状況」を伝えなくてはいけません。そうしなければ、ストーリーを理解するのに時間がかかり、そもそも楽 しむ所まで辿りついてもらえないからです。全ての場面設定を、そのシーンの冒頭の2〜3秒で表現できれば、うまく聞き手を導くことができます。

いつなのか(昼間なのか夜なのか現在なのか回想なのか)
どんな場所なのか(室内なのか屋外なのかあるいは心象風景なのか)
これを、シーン頭の2〜3秒程度でSEで描けるかどうかが非常に重要です。

これと並んで、登場人物のセリフの定位や距離関係をわかりやすく示すという事が重要です。

マイクを誰につけるのか(視点を誰目線にするのか)をしっかりと決めてセリフを収録しなければ、後でいくら加工しても上手くいかないことは皆さんもやってみてよくお分かりになった事と思います。 上記の二点(セリフとSEの初期設定)のデザインが、全体的にやや危うく感じました。
登場人物の動きに付随する生音についても、同様に誰に付いたマイクを通して聞こえている音なのか、という部分の整合性がとれていない箇所が幾つかあり、謎解きをしながら(それはある意味楽しい作業でしたが)聴き進めまし た。
「誰に付いているマイクか」という意味が分かりますでしょうか。ちょっと難しいかも知れません。活字における「視点」を、「聴取点」 に置き換えて考えて頂けるといいと思います。具体的に気になった箇所をあげると、
例えば
・セリフやそれに付随する足音をFI・FOにするのか、ON移動にするのか、という選択で不適切な箇所があった
・「足音」の必要な(つけなければ分かりにくい)所に ついていない箇所があった
・逆に「足音」を忘れていい所にいつまでもついていたりして、段取りっぽくなってしまっている箇所があった
・電話の着信音や切れた後のトーン音の聞こえ方の扱いと、その後のセリフの扱いが精査されていない箇所があった

これは最初のうちは気づきにくいというか、うまく意識してデザインできない要素かも知れません。とくに、オーディオドラマの制作現場では、以下のような現象が起こり がちです。 自分たちには分かる。だから、聴く人にも分かるだろう。と思い込むこと。
作り手にとっては何の苦労もなく視覚的に見えているものが、初めて聴く人にとっては見えにくいのです。だから、ときに親切すぎるほどにポジショニング等を気にしなければならないのです。
「分かりやすいかどうか」ということは入り口ですので、是非ここに力を入れて頂くと本当に聴かせたい部分に、聴き手をストレスフリーに導くことができると思います。まずは、それをクリアした上で、魅力的な「森」のサウンドデザインや各シーンのベース音や特徴的な音に工夫を凝らすという作業が築いていけると思います。
ラーメン屋のベース音など、ときにマニアックすぎる試みも多々感じられました。他にも、何の生音の表現だったのかは忘れてしまいましたが、非常に微細な変化を音で表そうとしている姿勢には、大変感心いたしました。そうした細部の表現を追求することも重要ですが、そこにはまりすぎないことも大切です。
鹿の足音については、2本足になっていたので、あれは是非、4本足での表現にするべきです。 主人公のON移動の足音なのか、前を走る鹿の足音なのかよく分からなくなってしまいますので。
前後しますが、冒頭の授賞式のシーンでのピアノは会場で生演奏されているピアノ演奏ということだと思いますが、扱いをもっと無味乾燥にしなくてはいけないと思います。曲の選び方も演奏も、さりげなく、なんとはない感じを狙った方が良い です。 現状では色がつきすぎていると感じました。簡単にいうともっと安っぽくていいのだと思います。 音の広がりはもっと狭めて定位させ、ガヤとのなじみを考慮してアンビ エンスをつけると聴いて瞬時に「あ、生演奏のピアノね」と分かります。
総じて言えることはよく25分のサラウンドドラマに取り組みましたね!ということです。 これは本当に非常な労力を要したと思います。
5.1chを生かした表現も垣間みれましたし(森の風が吹き抜ける感じや、丸井?の嫌味が降り注ぐ回想のシーンな ど)意欲的に挑戦している姿が目に浮かびました。
是非、これからもオーディオドラマに感心を持ち続けていただいて、生活の一部の楽しみとしてラジオのチューニングを合わせるという行為 が定着しますよう個人的にも期待を寄せています。もちろん、実際に制作の現場で働いてみたいという方もプライベートでオーディオドラマをつくりたい、という方も心から応援していますので、共に頑張りましょう。
NHK-FMでは「青春アドベンチャー」「FMシアター」など現在も多 くのオーディオドラマを制作しておりますので、是非聴いてみてください。

詳しくはオーディオドラマのサイトをご覧ください。http://www.nhk.or.jp/audio/

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