沢口:第119回AES CONVENTIONが2年ぶりのN.Yで開催されました。前回は、9.11テロの後ということで出足も悪いコンベンションでしたが、今回は、参加者も2万を超える盛況でした。何よりも我々寺子屋のメンバーがたくさん参加、または、セッションに講師として参加していますので、今回は、スペシャルリポートとして三村・内村・今村・TACツアーでいつもお世話になるTAC山本のそれぞれが感じたAESの雰囲気を伝えてもらうことにしました。会場でDolbyのDagと話をしていましたが、AKIRAとMICKのSOUNDが独特でいつもオリジナルだね!と応援してくれました。仲間を増やしましょう。
10月6日:Surround Live-IIIについて 読売TV 三村レポート
YTV 三村
Live Sound Symposium "Surround Live III - Totally Surrounded"とは
AES開催の前日(10/6)にManhattan Center内のGrand Ball Roomにて行われた、サラウンドSRの話を中心としたワークショップ。AESプレイベントと位置づけられる"Surround Live" は今回で3回目を迎えた。"Totally Surrounded"の副題もあるようにFMやDTVにおけるサラウンド事情も取り上げ、アメリカの様々なサラウンド事情を知る良い機会と思い参加した。会場の"Grand Ballroom"というホールは歴史あるホールで、古い感じがするものの雰囲気は抜群である。ある程度残響感がありサラウンドのプレイバックには不向きと思ったが、DiGiCoのサラウンド対応デジタルSRコンソール"D-1"と、Meyerのスピーカはフロント3chがフライングされ、サラウンドはサイドとバックに計4ch、最大7.1chの環境となっていた。ちなみにこの"Grand Ballroom"は1926年に完成し、NYの屈指のスコアリングステージとして活躍しているようである。
チェアを務める"Technology Visions"のF. Ampel氏は「ここは歴史あるラジオ収録などに使われたホールであるが当時はモノラルだった!」と、このサラウンドワークショップ強調していた。
(1)Multi-channel Audio Concepts in Sound Reinforcement / Russ Berger (RBDG)
最初に聴覚:方向知覚のメカニズムについての解説。人間が水平方向の定位を知覚する際のILD(Interaural Level Difference)とITD(Interaural Time Difference)、これらに対して何故前後(例えば45°と135°)が判別できるのか、またClip音のほうがBand Noiseよりセンシティブな方向知覚を与えることやマスキング効果の解説がなされた。何となく知っていることであったが、ワークショップの最初として聴覚の基礎から「おさらい」する場であった。氏はこのような聴覚特性を考慮しながらサラウンドSRをプランニングしていくことが必要だという論調である。有名な等ラウドネス曲線がプロジェクタに出されて解説されていたとき、「サラウンドのミキシングの際にはスタジオのモニターレベルは一定値を守ること」というセオリーを思いだした。音の大きさによってミキシング感覚が変わることは体感しているが、このグラフから音の大きさによって聴覚の周波数特性カーブも変わることがわかる。フロントチャンネルからのマスキング効果とあわせて、聴感上のミキシングバランスに変化を感じるかと考えた。※余談だが、2003年に等ラウドネス曲線のISO規格が改定されている(初めて知りました)。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20031022/pr20031022.html
(2)Surround Sound for the Theater, Design Concepts & Implementations / Mark Hood(Echo Park Studio)
ミュージカル"Blast!"のサウンドデザイナーを務めたHood氏の、劇場におけるサウンドデザインの話である。聴衆に「驚き」や「意外性」、「臨場感」などドラマチックな効果を助長するためにサラウンドの効果を重視しており、自分の意図するサウンドデザインが全ての客席で体感できるような劇場内のシステム計画を行う必要性も論じていた。座席グレード(料金)に準じて、例えば「最も高価な席では最良の音場となること」は絶対条件だ。
劇場では生音とSRの音が同時に聞こえる(Blast!は顕著)。これらのバランスに腐心するという。今回のワークショップではDVDとしてリリースされている"Blast!"からデモ再生された。劇場のサウンドデザインとはやや異なるミックスと思われるが、定位はステージの演技に合わせて積極的な定位表現が行われ、また包囲感などもうまく使った仕上がりだと感じた。実際のミュージカルを見てみたいものだ。
劇場サラウンドSRのコンセプトとして・・・・
・何故、四方から音を聞かせるのか?(サラウンド音源は必然性があるときに使う)
・どのような方法(システム)でサラウンド音を実現するか
・これに伴うコスト増を、どのようにプロデューサーに納得させるか
ということを常に考えるそうである。とても共感する話だ。(プロデューサーへのネゴシエーションはやはり実際に体感させるデモが決め手とのこと)
(3)Beyond the Live Surround Orchestral Experience / Jonathan Laney (Jay Pritzker Pavilion)
シカゴのJay Pritzker Pavilionにおける大規模な音場支援サラウンドSR の紹介である。シカゴには”Grant Park Music Festicval"という大規模なクラシックの野外コンサートが夏に開かれており、その新しいホームグラウンドとして2004年に完成されたのがこの"Jay Pritzker Pavilion"である。固定椅子席が4000席、広大な芝生席では7000人の収容人数を誇り、高さ36m、ステージから芝生席後ろまで200mほどの距離とのこと。ここではその芝生席に至るまで「自然」で明瞭感のあるオーケストラサウンドを実現するため、LARES-Associetesの音場支援システムが導入された。音場再生用スピーカーは頭上を覆うステンレスポールにSRスピーカーを32箇所(左右4×前後8)設置。それぞれに真下に向くAcoustic Enhancement(残響付加)のスピーカーと斜め後方を向く初期反射(明瞭度付加)のスピーカーが対になっている。これらはLARESシステムにより、ステージのメインSRに対してディレイなど適切な補正が行われる。残響音についてはステージ上部に設置される8本程度のマイクで収音したものを処理している模様。他にも側面反射音をシミュレートするためのスピーカーも支柱に複数配置。講演では、Grant Park Music Festicvalのリハーサルの模様をPA MIX席にて"Holophone H2PRO"サラウンドマイクで収音した音を聴かせてくれた。遠くに市街地の車の音なども聞こえる中で、しかし野外とは思えない豊かな残響感が付加されていることが感じられた。最初はワークショップ会場の残響感と判別がつかなかったが、デモ録音にはAcoustic EnhancementをON/OFFする2バージョンがあり、ONのほうが圧倒的に「暖かい」サウンドとなったため、その効果を確認できた。しかし何より、このアメリカ的な大規模スペースの存在とそのシステムの巨大さに驚く。
詳細は以下のURL を参照してください。
http://www.lares-lexicon.com/millenium/millenium.html
(4)Source-Oriented Reinforcement - Delay-Imaging / Robin Whitaker(Outboard Electronics)
SRの現場にて、例えばステージ上の音を各客席で違和感無く定位させるためのシステムを解説。TiMAXというシステムを用いて様々な演劇などのSRの事例を紹介していた。「ステレオを超越した絶対的な情景表現のためのテクニック」として、サラウンドSRを有効に使った事例である。技術的にはHaas効果、Kurtruff効果、カクテルパーティ効果など聴覚特性を使って定位コントロールをしていることを解説。複数のスピーカーを設置し、それそれの再生音のレベルとディレイをコントロールして自然なサラウンド音場を演出しているようであるが、このSouce-Oriented Reinforcement(SOR)の効果は、実際体感しないと評価できないなと感じた。場所により位相感が崩れる気がするのだが・・・。
http://www.outboard.co.uk/pdf/TiMaxinfo/TiMax%20Seminar%20Notes.PDF
(5)Surround Radio / Mike Pappas / KUVO FM
KUVO FMというFM局から、サラウンドの番組制作について紹介された。「FMのリスナーの50%は自動車内でのリスナーである。リスニングポジションが固定されているためサラウンドの音場調整がし易いため、自動車でのサラウンド市場は現在注目を集めている」ということで、KUVO FMでもHD-RADIOの開始に伴いサラウンド放送を実現したようだ。2004年9月24日に、ダイアン・リーブス&コロラドシンフォニーオーケストラのライブパフォーマンス収録を(アメリカのFM放送で初の?)サラウンド放送したのを皮切りに、ライブ収録もののいくつかをサラウンド制作している模様である。マトリクス方式を採用しており、Neural5225やDolbyPL-IIのエンコードを採用する。特にPL-IIは多くのデコーダーがコンシューマーに出回っているために重要視しているようだ。ここで強調されていたことは、多くのモノラル聴取者(30%と言っていた)への品質保証のため、マトリクスエンコードされたステレオトラックの位相計監視が重要だと説いていた。ダイアン・リーブスライブの収録時のシステム系統図も紹介されたが、20本強の高品位なコンデンサマイクにGRACEのHAが使われ、(NeumannのSolution-Dマイクも!)そこからEMMのADCを介して、オリジナルステレオミックスを作りながらGenexの9048にDSDレコーディングされているという圧巻の機材群である。MonitorにAvalonのDiamond?のようなSP、これにJeff Rolandの501, 201などのAmpを組み合わせており、かなり音にこだわっている様子が伺えた。
→※寺子屋ニュースにもPappas氏のポリシーが伺える記事がありました。数年前より積極的にサラウンド制作に取り組んできたようです。
http://hw001.gate01.com/mick-sawa/terakoya/mick_news_data/fm_dsd.html
サラウンドマイクはリア成分のアンビエンスにNeumannのKU-100(ダミーヘッドマイク)を後ろ向きに吊り下げて使用したとのことで、実際に収録された音をデモ再生した。高品質なバンドのミキシングと、非常にナチュラルなホール感を作りだしていたのが印象的であった。今後アメリカのFM局のサラウンド事情は注目すべし!という印象を持った。
(6)Multi-Channel Audio in Live Sports Broadcasting / Randy Hoffner (ABC-Television)
期待していたテレビのサラウンド事情であるが、ワークショップの進行が遅れていたため、ものすごくあっさりと終わってしまった。デジタルテレビ放送が全米に浸透し、プライムタイムの75%がHD制作されていること、ABCではMonday Night Footballを1999年より720PのHDで制作しており5.1chサラウンドもレギュラー化していること、来月には朝の情報番組"Good Morning America"でもHD&サラウンド制作?されることが紹介された。"Monday Night Football"のオープニング部分のデモ再生がされたが、時間も短く且つ(権利問題のためか)映像は映さなかった。しかし臨場感あふれるスタジアムサウンドで、アメリカのスポーツならではの盛り上がりがサラウンドで効果的に表現されていた。
(7)Surround Mixing Live / Buford Jones & The Surround Live Performers
毎回ラストを飾る、バンド演奏を実際にサラウンドPAするデモLIVEである。今回のバンドはVo. & Gt. / Steel Gt. / KB & Vo. の3名によるバンド構成である。いずれも実力者揃いで演奏レベルは高かった。ミキシングデモはオーソドックスな「フロントにバンド、リア成分にリバーブ」といったところからスタートし、演奏中にVo.の定位をハードセンター→ダイバージェンス→ファンタムセンターなどに切り替えたり、また徐々にリア成分に楽器を定位させたり、演奏者にはやっかいなデモと想像された。このコーナーでは7.1chのchがフルに使われていたようである。SHUREのコンデンサマイクが抜けの良い音を拾っていた。ライブでのハードセンター定位もとても効果的だと感じる(フライングのため定位はやや上に行ってしまうが)。横にずれて聞いていてもVo.がステージ中央に定位するのは、見ていて心地良い。デモのため、Panで楽器をぐるぐる回したり不自然なことも多々しており、聴衆者は皆好きずきに歩き回りまたコンソールに集結したり、変なライブパフォーマンスだ・・・。面白かったのか、ボーカリストがその様子をステージからカメラに収めていた。コンソールを一心に見つめる人たち・・・。
さいごに
AESプレイベントであるSurround Liveは、私自信2年前の1回目に続いて今回が2度目の参加である。日本からの参加者があまり多く見られないこともあり、今回のAES報告はこのSurround Live-IIIを取り上げて紹介した。内容は2年前とそう大きく変わらず、技術の進歩と共に内容がよりブラッシュアップしていた感がある。私のように放送業界しか知らない人間にとって、他の分野でのサラウンドの取り組みはとても興味深いものであった。前々回は教会などのSRシステム(信仰心を高めるため、ゴスペルなどにサラウンドSRが用いられている!)の紹介もあったし、今回はシカゴの野外コンサートホールが圧巻で最後にはライブも楽しめる?など盛りだくさんのワークショップであった 。
119th AES Convention 内村和嗣 (NHK)
第119回AESコンベンションがアメリカ、ニューヨーク、ジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで10月7日から10日までの4日間行われました。今年はWhere Audio Comes Alive!というテーマのもと
・12の「スペシャル・イベンツ」
・120の「ペーパー」
・14の「ワークショップ」
・25の「チュートリアル」
・4の「ポスター」
・11の「スチューデント」
・6の「ブロードキャスト」
・6の「ヒストリカル」
・10の「ライブ・サウンド」
・5の「マスタークラス」
・12の「テクニカル・ツアー」
という各セッションやイベントそしてセミナーと、メーカー452社による「エクシビジョン」が行われ、オフィシャルな発表によると開催期間中20,260人の動員数があり歩くのが難しいくらいの盛り上がりをみせました。
コンベンションの開催を彩るキーノート・スピーチは伝説のコンソール・デザイナー、ルパート・ニーブ氏によって行われました。今年のコンベンション・テーマであるWhere Audio Comes Alive!は氏のスピーチのテーマでもあります。氏は音とはアートとサイエンスのバランスが絶妙であり、データだけでは解らないものがあることを述べ、「あなたは心の中でサウンドのピクチャを持っているか?そしてその絵を描くことができるか?」を問いかけるハードウェア・エンジニアの世界をデザイナーという領域に広げた氏ならではのメッセージの入ったスピーチが印象的でありました。
コンベンションのオープンを飾るワークショップ1はSurround Sound: A Chance for Enhanced Creativity George MassenburgをモデラーにRichard King, Bob Ludwig, Ronald Prent, Everett Porter,そして我らのAkira Fukadaによる豪華なセッションで幕開けしました。しかし、パネラーのテーブルの前にVTRとDA-98HRがドーンと置かれ深田さんの顔が見えない!紹介されるときBob Ludwigが深田さんの手を取ってstand-up!!
また、チュートリアル・セミナーでは寺子屋がそのままAES会場に大移動したようなMr. MickによるInternational Surround Mixers: A Listening Experience が開かれオーディエンスは必死に素材のクレジットを目盛っていました。しかし、会場が異常に寒い!さらに、Mickのセッションを含む多くのセッションでマシン・トラブル、接続間違い、フューマン・エラーが数多く見受けられ、この点では東京セッションは素晴らしく段取りとスタンバイは完璧ですな。だって参加者はプロのエンジニア集団ですよってのに!
様々なセッションに参加しましたが、米国4大ネットワークのヘッド・クォーターがあるニューヨークでのセッションらしく「ブロードキャスト・イベント」とカテゴライズされたセッションが数多く開かれていました。そのなかのひとつAudio for HDTVでCEA (Consumer Electronics Association)のディレクターDave Wilson氏の講演はとても興味深い内容でした。氏は米国の一般家庭におけるHDTVの普及に関するあらゆる事柄について非常に細かなリサーチ結果を報告され、中でも一般家庭での5.1サラウンド環境普及率が48%と言う報告に米国でのサラウンド・サウンドに対する浸透性の高さが伺えました。スピーチ終了後氏とコミュニケーションをとりセッション資料を翌日にe-mailで受け取ることができました。この資料内容は機会を設けて報告したいと思います。
AESではここ数年、特に次世代教育に力を入れています。「Student Activities」という学生対象のセッションが今回も11種類行われていました。中でも「Design Competition」はスタジオやレコーディングにおける知識やセオリーそしてスキルを審査。「Recording Competition」はクラシカル、ノン・クラシカル(ジャズ、フォーク、ポップ、ロック)、ポスプロを各々ステレオ、サラウンドのジャンルに分けて審査されます。審査員はグラミー、オスカーを獲得するプラチナ・エンジニア/プロデューサー達で、ジョージ・マッセンバーグ、リチャード・キングなどそうそうたるメンツです。彼らから学生達一人一人に評価と的確なアドバイスを得られる事は、なんとも豪華でチャンスにあふれたセッションとなっています。AES東京セッションにおいても第11回から学生用プログラム・セッションを取り入れコンペティションをおこなっていますが、業界発展のため今後さらに力を入れて行きたいと思うしだいです。
エクシビジョンのなかで最も目を引いたのがSSL社のC300の登場でありました。連日の黒山の人だかりにスケジュール予約をして深田さんと共に個別説明を受けました。Master Studio Systemと題されたこのコンソールは、フィルム及びビデオ・ポストプロダクション用に設計され512入力チャンネルと80のバスを縦横無尽に組み上げることができ、メインバスとモニターバスを個別のマトリクス構成ができます。また8~128チャンネルのフェーダー・サイズ、1~3マン・オペレーションを1式のコア・ユニットで構築され、これらのセットアップの変更は全くリスタートせずに再構成できるのです。またProTools Nuendo等を含む各社のDAWのコントロールをC300上でフル・コントロール可能。さらに24Pと23.976Pのシンクにも対応しています。これにより映画制作とテレビ・システムとのトランスファー問題を解消した唯一のコンソールが遂に登場したことになります。今後ハリウッドを中心とした24P制作スタイルが一挙に更新し、フォーマット管理がスムーズになることでしょう。SSL取締役のクリス・ジェンキンス氏は昨年のサンフランシスコAESで私の発表したペーパー・セッション「5.1Surround Sound Productions with Multi-format HDTV Programs」により24Pと23.976Pのシンク対応の必然性を強く感じ是非ともやり遂げたった。と誇らしげに語ってくれました。
コンベンション最終日にJazz at Lincoln Centerのテクニカル・ツアーに参加しました。リンカーン・センター内のタイム・ワーナー・ビルディングに昨年秋にオープンしたこのジャズ講演のために設計されたこの設備は、シアター(1,100席)、コンサート・ホール(600席)、クラブ(140席)、ラジオ局そしてレコーディング・スタジオ(5.1対応)から構築されています。各設備は光ファイバーで結ばれ、スタジオでレコーディング、放送、リリースすることを可能としています。特にThe Allen Roomと呼ばれるコンサート・ホールは巨大なガラス壁でホリゾントが設計されていて、マンハッタンの摩天楼の夜景をバックに演奏されるクールな美しさと雰囲気は圧巻でしょう。
世界各国から映画、音楽、放送を代表とするアーティストから研究者、技術者、メーカー関係者そしてオーディオに関わる仕事を目指す学生達までが数多く参加し、活発な議論と発表が行われる国際的な場に参加することは、最新の情報を得ることだけではなく、「生きる=音」の図式を持つ仲間とのコミュニケーション・ネットワークによって音を愛する力と友情で会場が支配され、そのエネルギーを持ち帰ることができます。
119th AES Convention (New York 2005) レポート 【日本テレビ・今村 公威】
私にとって(念願かなって)AESは今回が初参加でしたが、4日間の内容の濃さに圧倒されました。体がもう1つ位あれば良かったのですが・・・以下、(かなり)サラウンド寄りでレポートしたいと思います。
◆ワークショップ/セッション系
初日9:00から3時間に渡り、その名も”Surround Sound : A Chance for Enhanced Creativity”と銘打たれたワークショップが行われました。ChairがMartha de Francisco(元フィリップスのエンジニア、現カナダの大学教授)、パネリストがGeorge Massenburg、Richard King(Sony Music Studio)、Bob Ludwig(Gateway Mastering & DVD)、Ronald Prent(Galaxy Studios _ Belgium)、Everett Porter(Polyhymnia - Baarn, Netherlands)、そして寺子屋メンバーのNHK・深田 晃氏と極めて豪華。朝早いのに会場も満員で、サラウンドに対する世界的な熱気を感じました。ご本人が音源を再生しながら、その手法やフィロソフィーについて語るのは圧巻で、私が携わっているクラシック系の音源が多かったこともあり、初日から圧倒されるのと同時に非常に勉強になり、その場にいる幸せを感じました(ちなみに様々な音源中、やはり深田さんの音源がしっくり来たのは同じ日本人だからでしょうか・・・)。
面白いところでは、学生のレコーディングコンペがあり、その中に堂々と”Classical Surround”という独立した部門がありました。最終的に残った2名の大学生の音源再生と録音環境の発表を聞きましたが、日本の学校では考えられない様な恵まれた環境と、(学生としては)なかなかGoodな録音に、教育基盤の圧倒的な違いを感じ、ちょっと呆然としたのでした・・・
最終日11:00には我らが沢口塾長Presenterで、”International Surround Mixes: A Listening Experience”が行われました。2時間半に渡り世界中のサラウンド音源聞きまくり!で、これだけの音源を聞く機会はなかなかありません。一気に聴いていると、色々なアプローチとMixと音質があることに改めて気づき、新鮮な感動を覚えました。(ここだけの話ですが、私の記憶が正しければ、当日02時過ぎまで飲んでから「スライド作らなきゃ・・・」と言い残して去っていった沢口塾長、さすがです。)
その他にも、ここに書ききれないほど様々なセッションが開かれていました。” History of the Grand Recording Studios of New York City”などはNY開催ならでは、時間の関係で聞きかじりでしたがとても面白かった!
◆テクニカルツアー
AES主催で、各所のスタジオや劇場などが見学できます(さすがに有料)。今回は欲張って、Metropolitan Opera House (これはかなり個人的趣味)・Chelsea TV(あのカリスマ主婦の番組、Martha Stewart Livingを制作)・Food Network(料理の鉄人アメリカ版を制作)、と3つも申し込んだため、前述のセッションとの共存が大変でした・・・。どのツアーもさすがAES肝煎り、かなり深い所まで見せてくれたのですが、TV2局はHD化も迫っており、「HDにしたら必ず5.1サラウンドで放送する」と両者共言い切っていたのが印象的でした。アメリカでもHDとサラウンドは切り離せない物となっているのは確実です。
余談ですが、このツアー、ホントに色々な人が参加します。Food NetworkにはSSLのC100が入ってるため、見学に先立ちセールスエンジニアが「私はSSLのお~」と挨拶しかけたら、「SSLって何?」と聞いた学生がいて、私はコケました(実話)。
◆展示会
こちらは(実は)期待したほどではなく、放送関係の方は日本のInter Beeの方が面白いかもしれません。もちろんAES EXHIBITIONも網羅はしているのですが、本当に”Audio”寄りで、例えばインカムなどは殆どありません。その代わり?耳栓の展示があったりするところが”Audio”です。そんな中、卓好きの私が個人的に一番興味を引かれたのは、EAW(といっても実質Mackieですが)の新しいデジタル卓、”umx.96”でした。$5000程度で来年リリースとのこと。基本的にPA向けですが、48フェーダーで2レイヤー、表示系と操作系が実に充実しており、使いやすそうな卓です。サラウンドに対応していないのは残念ですが・・・詳しくはhttp://www.eaw.com/products/umx96/teaser/page1.htmlでドーゾ。その他、SSLがC300を発表していました。また、TASCAMが期待の?『箱物』48chHDDマルチレコーダー、”X-48”を展示していました(まだ殆どモックでしたが)。来年リリース予定だそうです。
◆その他・・・
とにかくProToolsが見聞きする各所(展示会・ポスプロ・スタジオ・TV局など)で完全にデファクトスタンダード化されているのは予想以上でした。個人的に「ProToolsやっといて良かった・・・」と妙に安心したのは、その勢いを実感したからでしょうか。
◆終わりに
サラウンドは全く普通、と言うより、Audioに携わる者にとって完全に「やらなきゃダメ」なフォーマットとなっていることを実感し、自信を深めました。塾生の皆さん、世界の潮流は完全にサラウンドです。頑張って参りましょう!!
第119回AES-TACツアー レポート BY 山本隆彦TAC
毎年秋のAESがアメリカ各地で行われる中、今年もTACツアーは、AES終了翌日バスをチャーターしスタジオ見学ツアーを行いました。メンバーは、メーカー、業者、楽器店、放送局、エンジニア等様々ですが、それぞれの視点で勉強し、情報を共有する場として毎年行っているもので夜の反省会(TACバー)迄毎日盛り上がっていました。ちなみにニューヨークのレコーディングスタジオ事情についても現地の方にいろいろ聞いてみたのですが、なかなか厳しいようでスタジオをクローズしたところもいくつかあり統廃合や、売りに出ている話もありました。その中で今回老舗でもあるSony Music Studio と、つい最近ICONシステムを導入したJazz at Lincoln Centerと、ポストプロのGIZNO Studioを訪問した部分をレポートします。
Sonyミュージックスタジオ http://www.sonymusicstudio.com
URS(プラグインソフト)のBobby氏の紹介でSONYスタジオをじっくり見せていただきました。ProToolsは、ここだけで21Set導入しているとの事で、レコーディングスタジオ7室、マスタリングスタジオ/9室、ビデオ/ポスト4室、オーディオ/ポスト6室、メインステージ3室等々を持った巨大スタジオで著名アーティスト専属の部屋を持ち世界中のありとあらゆる機材を所有している事とあらゆる音楽の発信拠点として活躍しているスタジオです。
レコーディングスタジオB
往年の名器(スカーリ・カッティングマシン) Room311 マスタリングルーム
Jazz at Lincoln center STUDIO
2004年2月にミッドタウン北側のコロンブスサークルにタイムワーナーセンタービルがオープンし、その中に3つのジャズ専門ホールを持つJazz at Lincoln Centerが出来た。と、ここまではよくある旅行雑誌に書かれていますが、我々が見学したのは、そのホールではなくそのホールに併設されているサテライトラジオ放送局の為の録音スタジオを見学しました。ここの運営はリモート録音で有名なEFENEL MUSICが行っています。このスタジオの入り口の廊下に面しているマシンルームを横目に見た瞬間、参加者は皆、足を止め、写真を撮り「オー!」と日本語で歓声あげてしまう程のラック群(写真1、2)まるでDigidesignのショールームのようです。右から10台、6台、6台、10台の合計32台で4式の192I/Oシステム 圧巻です。そして、コントロールルームには48フェーダーのICON D-Controlと、そのセンターセクションにはNewYorkで初めてインストールされたと言われるサラウンドパンナーが設置されていました。
このスタジオでは、MAのMIX作業用としての(ラジオ向けのスタジオなのですがね、、、?)ワークビデオやProToolsも大容量のサーバーにダイレクトにアクセスし他のスタジオとはDigiDeliveryで音源等のやり取りで行なうのが一般的との事でした。他にもマシンルームにはDS-D98、EVERTZ,BIGBEN,DV-RA1000等の見慣れた機器の他に自動的にサラウンド(5.1)をダウンミックス/アップミックスする為の機械も設置されていました。コントロールルームには5.1チャンネル分のスピーカーとICON D-Controlと正面にはSamsungの液晶テレビとミキサー席用にアーロンチェア、後ろにはクライアント用のソファーしか置かれていません、物理的なエフェクター類やパッチベイ等のアウトボードが全くありませんでした。隣接している向こう側のラジオサテライト用のスタジオや、もう一つの小さめのコントロールルーム(ここにもI-CON D-Controlの32フェーダーだけが設置)そして、かなり大きめのスタジオブースには入る事が出来ませんでしたが、単体のスタジオ事業としてもかなり大きな規模のスタジオだと思われます。併設されているコンサートホールとはリモートHAを使った回線(おそらくアナログだと思われる)とMADI回線でリンクされていると説明を受けましたがそのような大型のパッチ盤は見れませんでした。
GIZMO Studio
このスタジオにはサラウンドに対応したAudio Studioが1つと簡易防音ブースを持つ小さめのAudio Studioが2つ、Video EDIT Studioが3スタジオある Audio & Video Post Productionと看板にも書かれている通り(写真1)作品を完パケまで作る事が出来るスタジオです。全てのスタジオの面積はかなり小さく思え、日本にもありそうな規模のスタジオです。スタジオの立地もミッドタウンのマディソンスクエアガーデンとF.I.T.美術館の間あたりに位置する、日本で言う「雑居ビル」の中にありながら、コンパクトに集約されていました。
MA ROOMもサラウンドに対応した1部屋はDolbyもDTSも完備されており、共通のマシンルームにはノンリニアのビデオデッキやApple X-serve等もあり、Post Productionの仕事は一通り完結して行える事が想像出来ます。
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
October 30, 2005
October 28, 2005
第27回サラウンド塾 LPFがメインチャンネルに及ぼす音質劣化要因と解決にむけた「フェーズコントロール技術」 細井慎太郎
By. Mick Sawaguchi
日時:2005年10月28日
場所:パイオニア 第一スタジオ
講師:細井 慎太郎(パイオニアスピーカ技術部 Email:shintaro_hosoi@post.pioneer.co.jp)
テーマ:LFEチャンネル:LPFがメインチャンネルに及ぼす音質劣化要因と解決にむけた「フェーズコントロール技術」
[ はじめに ]
沢口:音楽のサラウンド制作を行っているとメインのチャンネルでいいバランスをとっても、それにLFEを加えるとどうも低域の勢いが減ってしまう!という悩みを感じたことはありませんか?これは、主に音楽のようにメインチャンネルの音源(ベース・キック・等)をLPFしてLFEへ送った場合に生じています。(相関関係のある音源と呼んでいます。)この原因と解決方法についてパイオニア 細井さんが取り組み昨年のAESベルリンで技術発表。その成果を「フェーズコントロール」という名称で録音制作の入り口から再生側の機器にいたるまで統一した考え方を提起しました。プロ業界のみなさんにも広くしってもらうために10月28日に2回にわけてデモと講演が行われ総勢46名の皆さんが参加、2回目は、主に寺子屋メンバー主体で実施しましたので、その概要をレポートします。
細井:私が、この問題に気づいたのは、パイオニアDVD-Aサラウンドチェックディスクを制作するため、このスタジオで音楽のMIX を行っていた時にメインチャンネルのバランスではいい感じなのにLFEを加えると低域がやせてしまうという現象を経験し、これは何故か?を研究しはじめたことがきっかけです。音の時間と位相のミスマッチを解消し、低音を意図どおり再生するための技術コンセプトとして「フェーズコントロール」という考え方を制作から再生までトータルで提案したものです。
・ 現象は(LFEchとメインchとに相関がある場合)メイン音を変質させます。
・ 原因はメインchとLFEchとの「時間」「位相」のミスマッチで主な原因はLFE の帯域制限を行うデジタルLPFが発生する群遅延にあります。これはどんなタイプの フィルターを使っているかによって多少の遅延時間差がありますが、おおむね3-6msecの遅れとなります。既存のサラウンド音楽ソフト100タイトルを調査しましたが、メインチャンネルとLFE との位相関係が揃っていたのは、1タイトルだけでした。
映画・ドラマなどメインチャンネルとLFEが無相関な場合 楽音源は全てが同じ音源・時間軸なので相関が高い
・ 原因の所在は「ソフト」と「再生側」にあります。
・ 解決策を“PHASE CONTROL”と呼んでいます。
無相関型
メインチャンネルと全く無関係な信号を使用して、LFEを作成。これは主に映画音響やドラマ、ドキュメンタリー、アニメなどメインチャンネルとは相関のない音源を使用して新たに作り出すLFEの場合です。この場合は上記のような現象を生じることはありません。
相関型
音楽のように時間軸が同じでベースやKICKといった一つの信号から、ローパスフィルター(LPF)を通してLFEを作成する場合に相当し、このときにメインチャンネル音とLFE音の位相ずれが音質劣化を生じます。LFE作成時のローパスフィルターの遅れによる影響で、LFEとメインチャンネルの時間と位相のミスマッチにより、干渉を起こしメインチャンネルの低音を変質させる結果になります。下の図でも分かるようにカットオフ周波数付近で深いディップを生じています。
制作側での解決方法(DAWを使用する場合)
バス単位でPHASE CONTROLを行う場合
LFEのBusにLPFを入れる、LFE以外のBusにDelayを入れるs最適ディレイ表に従って、Delayを調整
利点:簡便であり、DSPパワーも食わない
欠点:メインにDelayが入るので音質的な懸念がある。
チャンネル単位でPHASE CONTROLを行う場合
LFEに使用するチャンネルをデュプリケート、LFE用のチャンネルにLPFを入れる、LPF で生じる遅れの分最適ディレイ表の時間から値を見て、音源クリップのリージョンを早める。
利点:メインを変化させないので、音質的な問題がない
欠点:作業が多少煩雑、DSPパワーも多く必要
フェーズコントロールが無い場合のLPF周辺の特性ふ・ェーズコントロールを行った場合のLPF 周辺の特性
相関型LFEをモニターする場合の注意点
・ ディスクリートの場合(5.1CHモニターがそれぞれ同一モデルでセットした場合)
サブウーファーのLPFをバイパスする
※ バイパス不可能なサブウーファーもある
・ バスマネージメントの場合(サラウンド モニターなどが低域をカットされたベースマネージメントの使用を前提としたシステム)
適切なバスマネージメントで純正組み合わせで使用するのが無難
例えば、GENELEC や M&K等
パイオニアからの提案
PHASE CONTROL技術を適用しただけでは、消費者にはわかりません。そこで、ロゴマークをパッケージに表記して、LFEの問題が解決されたソフトであることを知らせることを提案します。
PHASE CONTROL技術を業界内に広く提案、無償ライセンス
・AES116th Conventionで学会発表
・Prosound8月号に解説記事掲載
PHASE CONTROL採用決定ソフト
・ CHAGE & ASKA 限定DVD
・ マーラー第3番(SACD&DVD-A)オクタヴィアレコード
・06年春公開映画、DVD等にも採用予定
・広く業界に対して、業界団体等に提案活動中
Q&A:
Q:Dolbyやdts・AAC などのエンコード・デコードが入る場合の遅延はどれくらいか?
Q:LFE 側で逆相SWがあるがこれでは解決しないのか?
Q:再生アンプで位相の補正を行うとのことだが、それで制作側でずれた、位相関係が修正されるのか?
Q:無償ロゴライセンスの手続きと制作したソフトの品質チェック方法は?
Q:スタジオ音響設計を行っているが、相関型と無相関型のソフト制作でモニタリングの位相処理を変えるといったことを考慮しなければならないのか?
Q:100タイトルほどチェックした結果だが、制作側では今までそうした現象に気づかなかった? (了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
日時:2005年10月28日
場所:パイオニア 第一スタジオ
講師:細井 慎太郎(パイオニアスピーカ技術部 Email:shintaro_hosoi@post.pioneer.co.jp)
テーマ:LFEチャンネル:LPFがメインチャンネルに及ぼす音質劣化要因と解決にむけた「フェーズコントロール技術」
[ はじめに ]
沢口:音楽のサラウンド制作を行っているとメインのチャンネルでいいバランスをとっても、それにLFEを加えるとどうも低域の勢いが減ってしまう!という悩みを感じたことはありませんか?これは、主に音楽のようにメインチャンネルの音源(ベース・キック・等)をLPFしてLFEへ送った場合に生じています。(相関関係のある音源と呼んでいます。)この原因と解決方法についてパイオニア 細井さんが取り組み昨年のAESベルリンで技術発表。その成果を「フェーズコントロール」という名称で録音制作の入り口から再生側の機器にいたるまで統一した考え方を提起しました。プロ業界のみなさんにも広くしってもらうために10月28日に2回にわけてデモと講演が行われ総勢46名の皆さんが参加、2回目は、主に寺子屋メンバー主体で実施しましたので、その概要をレポートします。
細井:私が、この問題に気づいたのは、パイオニアDVD-Aサラウンドチェックディスクを制作するため、このスタジオで音楽のMIX を行っていた時にメインチャンネルのバランスではいい感じなのにLFEを加えると低域がやせてしまうという現象を経験し、これは何故か?を研究しはじめたことがきっかけです。音の時間と位相のミスマッチを解消し、低音を意図どおり再生するための技術コンセプトとして「フェーズコントロール」という考え方を制作から再生までトータルで提案したものです。
・ 現象は(LFEchとメインchとに相関がある場合)メイン音を変質させます。
・ 原因はメインchとLFEchとの「時間」「位相」のミスマッチで主な原因はLFE の帯域制限を行うデジタルLPFが発生する群遅延にあります。これはどんなタイプの フィルターを使っているかによって多少の遅延時間差がありますが、おおむね3-6msecの遅れとなります。既存のサラウンド音楽ソフト100タイトルを調査しましたが、メインチャンネルとLFE との位相関係が揃っていたのは、1タイトルだけでした。
映画・ドラマなどメインチャンネルとLFEが無相関な場合 楽音源は全てが同じ音源・時間軸なので相関が高い
・ 原因の所在は「ソフト」と「再生側」にあります。
・ 解決策を“PHASE CONTROL”と呼んでいます。
無相関型
メインチャンネルと全く無関係な信号を使用して、LFEを作成。これは主に映画音響やドラマ、ドキュメンタリー、アニメなどメインチャンネルとは相関のない音源を使用して新たに作り出すLFEの場合です。この場合は上記のような現象を生じることはありません。
相関型
音楽のように時間軸が同じでベースやKICKといった一つの信号から、ローパスフィルター(LPF)を通してLFEを作成する場合に相当し、このときにメインチャンネル音とLFE音の位相ずれが音質劣化を生じます。LFE作成時のローパスフィルターの遅れによる影響で、LFEとメインチャンネルの時間と位相のミスマッチにより、干渉を起こしメインチャンネルの低音を変質させる結果になります。下の図でも分かるようにカットオフ周波数付近で深いディップを生じています。
制作側での解決方法(DAWを使用する場合)
バス単位でPHASE CONTROLを行う場合
LFEのBusにLPFを入れる、LFE以外のBusにDelayを入れるs最適ディレイ表に従って、Delayを調整
利点:簡便であり、DSPパワーも食わない
欠点:メインにDelayが入るので音質的な懸念がある。
チャンネル単位でPHASE CONTROLを行う場合
LFEに使用するチャンネルをデュプリケート、LFE用のチャンネルにLPFを入れる、LPF で生じる遅れの分最適ディレイ表の時間から値を見て、音源クリップのリージョンを早める。
利点:メインを変化させないので、音質的な問題がない
欠点:作業が多少煩雑、DSPパワーも多く必要
フェーズコントロールが無い場合のLPF周辺の特性ふ・ェーズコントロールを行った場合のLPF 周辺の特性
相関型LFEをモニターする場合の注意点
・ ディスクリートの場合(5.1CHモニターがそれぞれ同一モデルでセットした場合)
サブウーファーのLPFをバイパスする
※ バイパス不可能なサブウーファーもある
・ バスマネージメントの場合(サラウンド モニターなどが低域をカットされたベースマネージメントの使用を前提としたシステム)
適切なバスマネージメントで純正組み合わせで使用するのが無難
例えば、GENELEC や M&K等
パイオニアからの提案
PHASE CONTROL技術を適用しただけでは、消費者にはわかりません。そこで、ロゴマークをパッケージに表記して、LFEの問題が解決されたソフトであることを知らせることを提案します。
PHASE CONTROL技術を業界内に広く提案、無償ライセンス
・AES116th Conventionで学会発表
・Prosound8月号に解説記事掲載
PHASE CONTROL採用決定ソフト
・ CHAGE & ASKA 限定DVD
・ マーラー第3番(SACD&DVD-A)オクタヴィアレコード
・06年春公開映画、DVD等にも採用予定
・広く業界に対して、業界団体等に提案活動中
Q&A:
Q:Dolbyやdts・AAC などのエンコード・デコードが入る場合の遅延はどれくらいか?
Q:LFE 側で逆相SWがあるがこれでは解決しないのか?
Q:再生アンプで位相の補正を行うとのことだが、それで制作側でずれた、位相関係が修正されるのか?
Q:無償ロゴライセンスの手続きと制作したソフトの品質チェック方法は?
Q:スタジオ音響設計を行っているが、相関型と無相関型のソフト制作でモニタリングの位相処理を変えるといったことを考慮しなければならないのか?
Q:100タイトルほどチェックした結果だが、制作側では今までそうした現象に気づかなかった? (了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
October 2, 2005
第26回サラウンド塾 NTV/TV-ASAHI/MBS各社のクラシック サラウンドマイキング聞き比べ
By Mick Sawaguchi 沢口真生
2005年10月2日 三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:クラシック サラウンドマイキング聞き比べ
講師:今村公威(NTV)桂川英樹(TV-ASAHI)入交英雄(大阪MBS)
沢口:今回は、3社の放送局NTV今村さん、TV-ASAHI桂川さんそして大阪MBS入交さんからクラシックのサラウンド制作についてお話してもらいます。それぞれHAMASAKI-SQUAERやOCTそして全指向SQUAERと異なるアプローチをしていますので、デモも興味あるのではないかと思います。
今村:NTVで制作しています「深夜の音楽会」これは1973年から続いている長寿番組で現在は、毎月第2水曜日の01:59-02:59までデジタル波5.1CH NTSCは,ステレオで放送している読売交響楽団のクラシック番組です。これまでステレオで制作してきましたがこれをサラウンド化するにあたり以下の考えで始めました。
1.従来のステレオ制作を基本にする。ダイレクト2CH MIX から多くのことを勉強できる環境を継続。
2.サラウンドマイクをどうするか?―フロントメインは、ステレオ収録の時からフィリップス方式を使用していた。
全指向性は、フロントからのかぶりが大きいので使わないことにして2003年のInterBEE音響シンポジュームの講演でNHK濱崎さんが提唱したHAMASAKI-SQUAERをきいてこれだと思いテスト収録を行いました。場所は墨田トリフォニーホールで2003年12月に実施。このときはスクエアーの4本ではなく2本でしたが、いけるという感触を得る事ができました。このデモをもって制作へアプローチしました。そのときのキャッチフレーズは、制作は今までと何ら変わりません。音声の責任でサラウンド制作行程はすべてやります!ということでした。
収録はマッキーSDR-24CH HDレコーダーをメインにバックアップはラダーのHD 24CHです。ホールの場合、つりマイクの場所が自由にならないので、理想的なスクエア形式につれないこともあります。デモで聴いていただいたホールの場合メインとの距離が10.5mとなりました。スクエアーの一辺は2-3mに収めないといいサラウンド空間となりません。マイクはAKG C-414を双指向性で使っています。LFEについては、クラシックの場合必要ないと考えていますが、LFE CHになにもないと視聴者からクレームがくる場合があるので、控えめにLFEにも送っています。センターCHについては、フィリップ方式のセンター用ペア マイクをMIXしてセンターとしています。
ポストプロダクションは、NTVのMACLOスタジオで行っていますが、ここではプロツールスに取り込み、作業を行っています。収録から完成まで一貫して担当したことで、一番良かったのは、送出リミッターが純粋な音楽ではかかり過ぎでピークが押さえられるということを発見したことです。このため現在送出リミッターの設定値について再検討を行っています。
桂川:TV-ASAHIの掛川です。私は、入社以来ミキサー希望でしたが、これが実現したのは、35歳のときでした。今日はTV-ASAHIの「題名の無い音楽会」のサラウンド制作についてお話します。この番組をサラウンド化するにあたり
1 現行NTSC方式の品質を損なわない互換性を保つ
2 制作コストも現行なみで行う
3 営業/制作へのプロモーションを行い理解を深める
の3点を基本としました。題名の無い音楽会は、人見講堂、オペラシティー、メルパルク芝。文京シビックホールと様々な場所で収録を行うため効率のよいメインマイク方式を検討し、その結果OCT方式としました。これは、一体型の5CHメインマイクであるため設置も容易です。通常収録には、メインマイクとAUD2本 ワイアレスマイク6本とスポットマイクが20-40本程度になります。これを3時間半の準備時間で行っています。OCT方式は、メイン40cm、サラウンドは、1mのバーで前後の距離は40cmです。フロントは指向性の広いワイドカーディオイドでリアは単一指向性です。スポットマイクが多いのは、ホールによって反響板がなかったり、出し物が正面に来てオーケストラが後ろに下がっている場合にメインマイクでカバーできないことが多いためです。
収録は、タムコ R-4を使用し OTARI DR-100-48CH HDとマッキーSDR-24をバックアップとしています。ポストプロダクションは本社のスタジオで実施していますが、細かな編集などに対応するには今後DAWの導入も検討しています。ステレオMIXは、専用に制作せずサラウンドのダウンMIXで対応しています。我々の放送も悩みは同じで送出リミッターの特性が音楽には向いていないので機種や設定の変更で対応しています。
入交:毎日放送MBSの入交です。現在は、送出マスターにて音質向上の取り組みを行っています。私のオーケストラ サラウンドの取り組みは、全指向性マイクを2-3mのスクエアーで配置するという方法です。フロントメインマイクはデッカツリー方式で、一辺が1.2m、小編成時は60cm使用マイクはDPA-4006、リアは52Sです。また現行アナログ放送でもサラウンドのサービスを行うためにDolby PL-2によるエンコード/デコード実験も行いマトリックスサラウンドも十分メリットがあると思っています。
よく時間軸の補正について議論がありますが、私は、メインマイクとサラウンドマイクの時間補正は行わず、メインマイクとスポットマイクとの距離については、サウンドステージを整えるという意味で行っています。これはプロツールズ上で実施しています。収録から完成まで一貫してプロツールズで48-24bit録音です。ではデモサンプルをお聴きください。これらは、2mと3mのサラウンド スクエアーと1.2m.60cmのデッカツリーの組み合わせや、サラウンド スクエアーを水平でなく垂直に設置したもの、さらにディスクリートとPL-2デコードなどを再生します。
飛び入りでY-TVの三村さんから東京芸術劇場で収録したコンサートのデモもありました。これは、OCTの一種でOCTの推奨よりもリア側の距離を長くしたメインマイクを使用しています。今回は、大坂から入交、三村さんと富山北日本放送荒井さん参加と若手の放送制作ミキサーが集まり、AFATER5も議論で盛り上がりました。
◎放送技術10月号に若手サラウンド ミキサー大いに吠える!大企画が掲載されています。寺子屋メンバーの誌上座談会のような大特集是非お読み下さい。(了)
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「実践5.1ch サラウンド番組制作」
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
2005年10月2日 三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:クラシック サラウンドマイキング聞き比べ
講師:今村公威(NTV)桂川英樹(TV-ASAHI)入交英雄(大阪MBS)
沢口:今回は、3社の放送局NTV今村さん、TV-ASAHI桂川さんそして大阪MBS入交さんからクラシックのサラウンド制作についてお話してもらいます。それぞれHAMASAKI-SQUAERやOCTそして全指向SQUAERと異なるアプローチをしていますので、デモも興味あるのではないかと思います。
今村:NTVで制作しています「深夜の音楽会」これは1973年から続いている長寿番組で現在は、毎月第2水曜日の01:59-02:59までデジタル波5.1CH NTSCは,ステレオで放送している読売交響楽団のクラシック番組です。これまでステレオで制作してきましたがこれをサラウンド化するにあたり以下の考えで始めました。
1.従来のステレオ制作を基本にする。ダイレクト2CH MIX から多くのことを勉強できる環境を継続。
2.サラウンドマイクをどうするか?―フロントメインは、ステレオ収録の時からフィリップス方式を使用していた。
全指向性は、フロントからのかぶりが大きいので使わないことにして2003年のInterBEE音響シンポジュームの講演でNHK濱崎さんが提唱したHAMASAKI-SQUAERをきいてこれだと思いテスト収録を行いました。場所は墨田トリフォニーホールで2003年12月に実施。このときはスクエアーの4本ではなく2本でしたが、いけるという感触を得る事ができました。このデモをもって制作へアプローチしました。そのときのキャッチフレーズは、制作は今までと何ら変わりません。音声の責任でサラウンド制作行程はすべてやります!ということでした。
収録はマッキーSDR-24CH HDレコーダーをメインにバックアップはラダーのHD 24CHです。ホールの場合、つりマイクの場所が自由にならないので、理想的なスクエア形式につれないこともあります。デモで聴いていただいたホールの場合メインとの距離が10.5mとなりました。スクエアーの一辺は2-3mに収めないといいサラウンド空間となりません。マイクはAKG C-414を双指向性で使っています。LFEについては、クラシックの場合必要ないと考えていますが、LFE CHになにもないと視聴者からクレームがくる場合があるので、控えめにLFEにも送っています。センターCHについては、フィリップ方式のセンター用ペア マイクをMIXしてセンターとしています。
ポストプロダクションは、NTVのMACLOスタジオで行っていますが、ここではプロツールスに取り込み、作業を行っています。収録から完成まで一貫して担当したことで、一番良かったのは、送出リミッターが純粋な音楽ではかかり過ぎでピークが押さえられるということを発見したことです。このため現在送出リミッターの設定値について再検討を行っています。
桂川:TV-ASAHIの掛川です。私は、入社以来ミキサー希望でしたが、これが実現したのは、35歳のときでした。今日はTV-ASAHIの「題名の無い音楽会」のサラウンド制作についてお話します。この番組をサラウンド化するにあたり
1 現行NTSC方式の品質を損なわない互換性を保つ
2 制作コストも現行なみで行う
3 営業/制作へのプロモーションを行い理解を深める
の3点を基本としました。題名の無い音楽会は、人見講堂、オペラシティー、メルパルク芝。文京シビックホールと様々な場所で収録を行うため効率のよいメインマイク方式を検討し、その結果OCT方式としました。これは、一体型の5CHメインマイクであるため設置も容易です。通常収録には、メインマイクとAUD2本 ワイアレスマイク6本とスポットマイクが20-40本程度になります。これを3時間半の準備時間で行っています。OCT方式は、メイン40cm、サラウンドは、1mのバーで前後の距離は40cmです。フロントは指向性の広いワイドカーディオイドでリアは単一指向性です。スポットマイクが多いのは、ホールによって反響板がなかったり、出し物が正面に来てオーケストラが後ろに下がっている場合にメインマイクでカバーできないことが多いためです。
収録は、タムコ R-4を使用し OTARI DR-100-48CH HDとマッキーSDR-24をバックアップとしています。ポストプロダクションは本社のスタジオで実施していますが、細かな編集などに対応するには今後DAWの導入も検討しています。ステレオMIXは、専用に制作せずサラウンドのダウンMIXで対応しています。我々の放送も悩みは同じで送出リミッターの特性が音楽には向いていないので機種や設定の変更で対応しています。
入交:毎日放送MBSの入交です。現在は、送出マスターにて音質向上の取り組みを行っています。私のオーケストラ サラウンドの取り組みは、全指向性マイクを2-3mのスクエアーで配置するという方法です。フロントメインマイクはデッカツリー方式で、一辺が1.2m、小編成時は60cm使用マイクはDPA-4006、リアは52Sです。また現行アナログ放送でもサラウンドのサービスを行うためにDolby PL-2によるエンコード/デコード実験も行いマトリックスサラウンドも十分メリットがあると思っています。
よく時間軸の補正について議論がありますが、私は、メインマイクとサラウンドマイクの時間補正は行わず、メインマイクとスポットマイクとの距離については、サウンドステージを整えるという意味で行っています。これはプロツールズ上で実施しています。収録から完成まで一貫してプロツールズで48-24bit録音です。ではデモサンプルをお聴きください。これらは、2mと3mのサラウンド スクエアーと1.2m.60cmのデッカツリーの組み合わせや、サラウンド スクエアーを水平でなく垂直に設置したもの、さらにディスクリートとPL-2デコードなどを再生します。
飛び入りでY-TVの三村さんから東京芸術劇場で収録したコンサートのデモもありました。これは、OCTの一種でOCTの推奨よりもリア側の距離を長くしたメインマイクを使用しています。今回は、大坂から入交、三村さんと富山北日本放送荒井さん参加と若手の放送制作ミキサーが集まり、AFATER5も議論で盛り上がりました。
◎放送技術10月号に若手サラウンド ミキサー大いに吠える!大企画が掲載されています。寺子屋メンバーの誌上座談会のような大特集是非お読み下さい。(了)
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