はじめに
2002年第74回アカデミー音響効果賞受賞作2001年制作Pearl Harborのサウンド・デザインを紹介します。監督のMichael Bayは、近作Trans Formerシリーズで知られていますが、彼はいかにもハリウッド好みの派手な爆発やアクションシーンで知られています。
本作の縦軸は、LOVE STORYですが、横軸となる真珠湾奇襲シーンでILM が担当したVFXと相乗効果を生んだおよそ30分に及ぶ壮烈なサウンド・デザインがメインとなった3時間3分の長編です。
受賞に大きく貢献したのは、様々な飛行機や武器をフィールド録音したJohn Fasalの貢献が大きいと筆者は感じています。
1 制作スタッフ
Director: Michael Bay
Sound Design: Chris Boyes Ethan Van Der Ryn
Final Mix: Kevin O’Connell Greg Russell
At Sony Pictures Studio Cary Grant Theatre
Music: Hans Zimmer
Music mix :Alan Meyerson at 20c FOX Newman scoring stage
Foley Artist: John Cucci Dan O’Connell
Production Sound: Peter J. Devlin
Sound Recordist: John Fasal Scott Guitteau
2 ストーリーと主要登場人物
レイフとダニーは、幼い頃から兄弟同然に育ちいつも一緒で飛行機遊びが大好きな少年でした。そしてレイフが、字が読めないことをダニーはかばっていました。第一次世界大戦で兵士として戦ったダニーの父は、その記憶からPTSD気味です。2人は、陸軍航空隊に志願しロング・アイランドにあるミッティエル陸軍飛行場配属になり腕を磨いていました。一方看護師の新人一行もN.Yに到着します。パーティでレイフは美しい看護師のイヴリンと出会い恋に落ちます。 レイフは、上官ジミー中佐の命令でヨーロッパ戦線に参加となりイギリス空軍イーグル中隊に配属になりますが、イギリスのパイロットは、アメリカからの友軍とはみなしていませんでした。その頃、ダニーとイヴリンは、ハワイのパール・ハーバーに転属となります。だがその直後、二人が受け取ったのは、レイフの戦死の知らせでした。悲しみに沈むイヴリンにダニーは、なんとか気持ちを回復してほしいと慰めるうちにやがて深い関係になってしまいます。戦死と思われたレイフは、フランスの漁船に救助され苦労の末にアメリカへと帰国しますが、二人が恋仲になっていることを知って失意に陥入りイヴリンを巡ってダニーと対立するようになります。そんな1941年12月7日の朝、真珠湾攻撃のためにハワイ北西沖へと到着した大日本帝国海軍の空母機動部隊の攻撃隊が日曜朝の平穏なパール・ハーバーを奇襲します。
戦火の中で反撃に出たダニーとレイフ、そして負傷者を必死で救出、手当てするイヴリン。翌年4月18日アメリカはB-29 16機による初日本本土爆撃奇襲作戦Doolittle-Raidを行います。
3 起承転結毎の特徴的なサウンド・デザイン
3−1起 00h00’00”-33’35”
レイフとダニーそして看護士イヴリンとの出会いがメインです。ここでは、フィールド録音したP-40戦闘機の様々な素材を聞いてみるためにレイフとダニーが腕を身がいている上空の飛行シーンから機内と機外のサウンドを紹介しスペクトルも紹介します。コックピット内での風防に当たる風切り音や2機がアクロバット飛行する時のエンジンと風圧のリアルさに注目しています。
P-40 機外飛行音
3−2承 34’35’-1h50’07”
意外に短い承パートです。
●レイフは、命令でイギリス空軍イーグル中隊へ派遣されドイツ空軍メッサーシュミットと戦います。出撃命令が出た彼のスピットファイアー は、まだ給油系統が未整備のまま出撃し交戦途中でオイル漏れとなり海中に沈んでしまいます。海への衝突と水中へ散乱する機体のデザインです。
●ミラー兵曹艦上ボクシングシーン
平和を満喫している太平洋艦隊のシーンとして登場するボクシングの場面です。皿洗いに甘んじているミラー兵曹と機関室の大男がお互いの賭けグループの応援を受けて試合をしています。パンチの音は、LFE成分がなく、その代わりL-Rにパンチの低域成分があるデザインで、応援団は4CHで周りを取り囲み応援しています。
3−3転 1h50’07’-2h07’07”
日本の機動部隊が12月7日朝の平和なパール・ハーバーを奇襲攻撃します。約30分のバトルシーンは、ほぼ全面爆発と機銃や魚雷攻撃、飛行場、病院攻撃と派手な爆発シーンの連続ですのでここでは、3つほど紹介するに留めます。
●戦艦アリゾナに命中した時限爆弾とアリゾナ大爆発
ゼロ戦からトリガー音とともに落下した爆弾が、アリゾナの砲弾貯蔵室へ落下、時限装置の羽がクルクル周り、やがて戦艦は2つに破砕されます。最初の時限爆弾落下までは、砲弾散乱音と密やかに回る羽音という静かさで次に大爆発となります。爆発の低域成分と戦艦の破砕金属音成分でバランスが取れています。ここもMIXトータルとLFE成分のみのスペクトラムを紹介します。
アリゾナ大爆発
アリゾナ爆発LFE
●戦艦の司令塔崩落
攻撃を受けた戦艦の司令塔が甲板に崩落します。縦位置の映像シーンは、サラウンド向きと言え、このデザインもフロントから落下してリアに散乱する破片の飛散がダイナミックさを表現しています。
●機銃掃射で飛散する兵舎の窓ガラス
このシーンもサラウンド向きのカットです。フロント前面に兵舎の窓がありそこに零戦からの機銃掃射が開始されガラス片は、フロントからリア側に飛散していきます。ガラス片の飛散中心なので参考にスペクトラムも測定してみました。
兵舎ガラス窓飛散
3−4結 2h07’07’-3h03’00”
トルーマン大統領が日本へ戦線布告の発議を議会へ提出。1942年3月3日には、ジミー中佐をリーダーとした報復爆撃作戦Doolittle-Raidが計画され4月2日空母ホーネットから決行されます。
B-29の様々な素材が大変リアルにデザインされていますので紹介します。またここもMIX全体とLFEのみのスペクトルを紹介します。
B-25 機内音
B-29 機内音全体とLFE
4 スコアリング音楽
音楽を担当したHans Zimmerは、作曲に先立って4−5タイプの仮mixを彼の既存アーカイブから制作し監督のMichael Bayと方向性を決めたので音楽は大変スムースだったと述べています。写真は、2001年当時から、Media Ventureと呼ぶプロダクション・スタジオで一貫した音楽制作をおこなっていたHansの若かりし姿です。
30秒ほどのバンパーの役目をする短いキューからバトルシーンのアンダースコアーとなる9分の組曲まで多彩な音楽となっています。監督のMichael Bayは、音楽で塗りたくるアクション映画にはしたく無いとの考えで音楽占有率は、61.7%と控えめと言えます。レコーディングは、20c FOX Newman Scoring Stageで長年コンビを組んでいるAllan Meyersonが担当。
本作では、膨大な効果音の嵐と格闘すると予想されたのでレベルを上げても邪魔にならないように多くのリボンマイクを使用したと述べています。
Final MixはHansのHome StudioであるMedia Ventureでおこなっています。
7CHメインマイキングとして典型的なDecca Treeのmic preスナップがありましたので紹介します。
5 Foley.効果音 素材録音 Final Mix
George Watters IIとChris Boyesは、まだ歴史の証人であるベテラン退役軍人の方々がいる中で如何に1940年のサウンドを再現するかがサウンド・チームに課せられた課題だったと述べています。素材としては、当時の飛行機であるB-25、メッサーシュミット、スピットファイアー 、P-40、零戦、戦艦、爆撃、銃火器などです。
● 飛行機全機種のあらゆる素材録音
これはカリフォルニア州Chinoにある歴史飛行機展示場に出向き約3ヶ月かけて機内、機外、エンジン、離着陸、上空飛行音を録音
● 銃火器録音
ジョージア州アトランタ在住の第2次大戦の武器を研究しているコレクターのところで約20種類に及ぶ銃器のフィールド録音を実施、特に跳弾や通過音に重きを置いて最大4CHで実施。Final Mixで有効なLFE成分についても素材録音を行いLFEプロセッサーによるLFE創出をしないように心がけたそうで同じLFEでもオリジナルのニュアンスがあることが有効と語っています。
●戦艦の軋みや揺れ、金属破砕音は、メキシコBajaの特撮スタジオで録音
●Foley
Foleyも膨大な素材が必要でone step upスタジオで28日かけています。その中には、水槽、レザー・ジャケット、軍服、靴、薬莢などが含まれています。
●Final mix
膨大なサウンドデータになりますので事前Pre-mixで整理を行うためプロデューサーのofficeに仮設5.1CH MIX ROOM作り監督と打ち合せしながら素材をFixしたそうでこれが大いに有効だったと述べています。Final Mixは、7.1CH SDDSフォーマットで行いここから5.1CH DOWN MIXも作成。本作のような複雑な音響構成ではスクリーン側に5CHあるのは実に有効だったそうです。
監督は、本作のようなVFXメインの作品でもADRは、やりたくないという方針だったのでプロダクション・サウンドのノイズ除去のために一人専用でクリーニングをおこなったそうです。この当時は、現在のようなインテリジェント・レストレーション・プラグインなど無い時代ですのでDoby CAT-43をメインに活用してノイズ除去をおこなっています。
終わりに
1996年建設され翌年J. Cameron監督のTitanicで世界的な評価を獲得しましたメキシコBajaにある現在世界最大級のWater tank-01を備えた特撮スタジオでの2作目が本作になります。
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